Bates Style という流儀──スティルトシートとチェリーテールが刻んだ西海岸ボバーの輪郭
1970年代の西海岸で確立されたBates Styleの系譜を、スティルトシートとチェリーテールの構造から読み解く。
「Bates」という名前が意味するもの
ボバーやチョッパーの文脈で「Bates」と聞いたとき、多くの人がまず思い浮かべるのはヘッドライトだろう。砲弾型のBatesヘッドライトは、戦後アメリカのカスタムシーンにおいてほぼデファクトの灯火として君臨してきた。しかし「Bates Style」という言葉が指す射程は、一個のヘッドライトよりもはるかに広い。スティルトシート、チェリーテールランプ、そしてそれらが統合されたときに生まれる車体の佇まい──つまり1970年代の米西海岸で結晶化したボバーの一様式そのものを指す言葉である。
そもそもBatesとは、カリフォルニアに拠点を置いていたBates Manufacturing(あるいはBates Leathers、時代により法人名が異なるが)に由来する。革製品やシート、灯火類を戦後まもなくから手がけ、当時のカリフォルニアのモーターサイクルカルチャーに深く根を下ろした。同社の製品が特別だったのは、それが「純正部品の代替」ではなく、「ストリップダウンした車体に合わせて設計されたアフターマーケットパーツ」だったという点にある。つまり、メーカーが想定しない使い方──余計なものを剥ぎ取り、軽く、低く、速くするという戦後ボバーの思想──に最初から応えるために作られていた。
この前提を理解しないと、Bates Styleは単なるレトロパーツの寄せ集めに見えてしまう。実際にはそうではなく、車体から不要な外装と重量を削ぎ落としたあとの「骨格に何を載せるか」という問いへの、極めて明確な回答だった。
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スティルトシート──構造が規定する乗車姿勢
Bates Styleを語るうえで避けて通れないのが、スティルトシート(Stilt Seat)と呼ばれるシート形式である。「Stilt」とは竹馬や支柱を意味する英語で、文字どおりフレームから支柱で持ち上げられた単座シートを指す。
構造は明快だ。フレームのリア部分──多くの場合はハードテイル化されたリジッドフレームのシートレール上端付近──に、金属製のスティルト(脚)を2本ないし4本立て、その上にパッド付きの革張りシートパンを載せる。シートパンの素材は鉄板やアルミの打ち出しが一般的で、その上に薄いウレタンパッドと革を被せる。スプリングを仕込む場合もあるが、リジッドフレームとの組み合わせではシート下のスプリングが唯一のサスペンション機構になるため、そのバネレートと形状は見た目以上に重要な設計要素となる。
このシート形式が生まれた背景には、戦後のボバー文化における「リアフェンダーの切り詰め」がある。純正のフルフェンダーを短くカット(ボブ)した結果、フェンダー上に載っていた純正シートの取り付け点が失われる。その帳尻を合わせるために、フレームから直接シートを生やす必要があった。スティルトシートは、その構造的な必然から生まれた形式だといえる。
見た目の効果も大きい。スティルトによってシート座面がフレーム上面から浮くことで、車体のサイドビューにフレームのラインが通る。エンジンからリアアクスルまでの視線が遮られないため、車体全体が低く、長く見える。ボバーが追求する「ストリップダウンされた骨格の美しさ」を、シートが邪魔しないどころか強調する。これが、見た目の好みを超えて構造的な合理性を持っていた理由である。
なお、スティルトシートと混同されやすいものにソロシートスプリングマウントがあるが、後者はシートポスト1本で支持する形式が多く、スティルトの「複数脚で支持して座面を水平に保つ」思想とは異なる。両者の区別は、横から見たときの座面角度とフレームからの離れ方で判断できる。
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チェリーテール──なぜあの赤い点灯がボバーの記号になったか
Bates Styleのもうひとつの象徴的パーツが、チェリーテールランプ(Cherry Tail Lamp)である。小ぶりな砲弾型またはビーハイブ(蜂の巣)型のテールランプで、赤いレンズが点灯したときの姿がサクランボに似ることからこの通称がある。
構造的な特徴は、その小ささと取り付けの自由度にある。純正テールランプは通常リアフェンダー上に取り付けられるが、チェリーテールはフェンダーストラットの先端、ナンバーブラケット脇、あるいはフレームエンドに直接ボルト留めできるだけの小型さを持つ。レンズ径はおよそ1インチから2インチ程度のものが多く、ハウジングは真鍮やスチールのダイキャストまたは削り出しが一般的とされる。
この「小ささ」が持つ意味は、単に視覚的な軽さだけではない。リアフェンダーを極限まで切り詰めた──あるいは完全に外した──車体において、法的に最低限の灯火義務を満たしつつ、車体のシルエットを崩さないための道具だった。いわば「規制をクリアするための最小限の灯火」であり、その割り切りの美学がボバービルダーたちに支持された。
ここで注意すべきは、「チェリーテール」という名称が特定メーカーの商品名というよりも、形状と用途に基づく通称として広まったという点である。Bates社が製造したものが原点とされるが、その後多くのメーカーやガレージが同型のランプを製造・販売しており、現在市場に出回っているレプリカの出自は多岐にわたる。オリジナルのBates製チェリーテールはコレクターズアイテムとしてスワップミートで高値がつくこともあるが、実用として組み込むならばレプリカで十分という考え方が主流だろう。
灯火としての性能面では、オリジナルの白熱球仕様は現代の交通環境において視認性に不安が残るという指摘が一般にある。LED化する場合、レンズ内径が小さいためバルブ選定が限られる。また、レンズの材質がガラスかアクリルかで光の拡散特性が変わるため、車検対応を意識するなら配光パターンの確認が欠かせない。
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1970年代西海岸──Bates Styleが結晶した時代と土地
Bates Styleが一つのまとまった様式として認識されるようになったのは、1970年代のカリフォルニアだとするのが通説である。ただし、その構成要素であるスティルトシートやチェリーテール自体は1950年代から存在しており、70年代に「スタイルとしての統合」が起きたというのが正確な理解だろう。
1960年代のチョッパーブームは、フロントフォークの延長とシッシーバーの高さ、そしてフレーク塗装やモールディングといった過剰な装飾に向かった。1969年の映画『Easy Rider』が象徴するあの長大なチョッパー像は、文化的なアイコンとしては強力だったが、実際に乗れる道具としての実用性は著しく犠牲になっていた。
その反動として1970年代に顕在化したのが、「もっと乗れるカスタム」への回帰である。フォークはストック長か、せいぜい数インチのオーバー。フレームはリジッドだが極端なレイクは入れない。タンクはピーナッツかスポーツスター純正のコンパクトなもの。そして灯火とシートにBatesパーツを選ぶ──この組み合わせが、70年代西海岸ボバーの輪郭を形成した。
なぜ西海岸だったのか。カリフォルニアの気候がリジッドフレーム+薄いシートという組み合わせを許容したこと、Bates社をはじめとするパーツメーカーが同地域に集中していたこと、そしてドラッグレースやフラットトラックの文化圏と地理的に重なっていたことが複合的に作用している。東海岸やミッドウエストにも当然ボバーは存在したが、Bates Styleという呼称が西海岸的な感性と結びつけられるのは、こうした地理的・産業的な文脈に拠る。
この時代のボバーは、チョッパーのような派手さがない分、雑誌メディアでの露出が少なかった。『Easyriders』や『Street Chopper』の誌面を賑わせたのはあくまでロングフォークのチョッパーであり、ボバーは裏通りの存在だった。それが再評価されるのは1990年代後半以降、いわゆるオールドスクールリバイバルの機運が高まってからである。
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現代におけるBates Style──生き延びた理由と入手の現実
2020年代に入っても、Bates Styleは死んでいない。むしろ、チョッパーとボバーの境界が曖昧になりつつある現代のカスタムシーンにおいて、「引き算の美学」の代名詞として一定の求心力を保っている。
パーツの入手性について触れておく。Batesの名を冠したヘッドライトやテールランプは、複数のアフターマーケットメーカーがレプリカを継続的に供給している。スティルトシートについても、シートパンとスティルトのキットがカスタムパーツの専門ディーラーから入手可能だ。ただし、オリジナルのBates社製パーツ──特に1950〜60年代のスタンプが入ったものは、スワップミートやオークションでプレミアがつく。コンディションと真贋の見極めが必要になるため、ヴィンテージパーツに精通した目利きの存在が重要になる。
ベース車両としては、ハーレーダビッドソンのアイアンヘッド・スポーツスターやショベルヘッド・ビッグツインが定番だが、英車(トライアンフ、BSA)や国産旧車(ヤマハXSシリーズなど)をベースにBatesパーツを組む例もある。Bates Styleの本質が「特定の車種に依存しない汎用パーツの組み合わせによる様式」である以上、ベース車種の選択肢は本来広い。ただし、フレームのシートレール形状やフェンダーマウント位置によってスティルトの取り付け加工の難易度が変わるため、ボルトオンで済むかワンオフの台座が必要かは事前に確認すべきだろう。
相場感としては、ベースとなるショベルヘッドFXの車両価格が近年さらに高騰しているのが悩みどころである。アイアンヘッド・スポーツスターは比較的手頃だが、それでも程度の良い個体は年々減っている。Bates Styleのボバーを「完成車」として購入する場合、ビルダーの技量と使用パーツの質により価格は大きく振れる。新品レプリカパーツで組んだ車両とオリジナルBatesパーツで統一した車両では、部品代だけで数十万円の差が出ることもある。
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まとめ──引き算の様式が残した轍
Bates Styleとは、特定のビルダーの作風でもなければ、特定の年代のトレンドでもない。戦後カリフォルニアの気候と文化、パーツメーカーの地理的集積、そしてチョッパーの過剰装飾への反動──これらが重なって自然発生的に形成された、ボバーの一つの到達点である。
スティルトシートはフレームラインを通すための構造的解法であり、チェリーテールは法規と美学の最小公倍数だった。どちらも「足す」のではなく「削った後に残すもの」として選ばれている。この引き算の論理が、半世紀を経ても色褪せない理由だろう。
もっと深く知りたい人には、以下の書籍を薦めたい。Ken Vreeke著『The Art of the Bobber』(Motorbooks刊)は、ボバーの歴史と代表的なビルドを豊富な写真で追った一冊で、Bates Styleの文脈を視覚的に掴むのに最適である。Tom Zimberoff著『Choppers: Heavy Metal Art』(Motorbooks刊)は、チョッパー寄りの内容だがボバーとの対比として読む価値がある。国内では『カスタムバーニング』2015年2月号(造形社)がオールドスクールボバー特集を組んでおり、Batesパーツの使い方を含む国内ビルダーの実例が参照できる。
本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。
📚 この記事で紹介した書籍
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The Art of the Bobber
Ken Vreeke / Motorbooks
- 📖
カスタムバーニング 2015年2月号
造形社
- 📖
Choppers: Heavy Metal Art
Tom Zimberoff / Motorbooks
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