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2026-07-28カスタム

Triumph Modern Classics — 「懐かしさ」を設計する英国流の工学と、その選び方

ボンネビルT120からスピードツインまで、トライアンフが仕掛けた"ヘリテージの再設計"を構造と文脈から読み解く。

Triumph Modern Classics — 「懐かしさ」を設計する英国流の工学と、その選び方
Photo by Roman · Source

空冷に見えて空冷ではない——Modern Classics という問いの立て方

2016年、トライアンフ・モーターサイクルズが第二世代のボンネビル・ファミリーを世に送り出したとき、多くのメディアが「レトロブーム」の文脈でこれを語った。だが、その見方は表層にすぎる。ヒンクレー工場が仕掛けたのは、「過去を模倣する」のではなく「過去を再設計する」という、きわめて工学的な挑戦だった。

1959年に登場した初代ボンネビル T120 は、648cc の並列二気筒・OHV で当時の最速量産車の一角を占めた。名前の由来はユタ州ボンネビル・ソルトフラッツでの速度記録であり、「ヘリテージ」とはすなわち「速さの記憶」だった。対して現行の Modern Classics ラインナップは、懐古趣味ではなく、現代の排ガス規制・安全基準・電子制御技術をクラシックな佇まいの中にどう溶かし込むかという設計命題に正面から取り組んでいる。水冷エンジンに空冷フィンを纏わせたのは見た目の偽装ではなく、熱マネジメント上の合理でもある——ここにこのシリーズの本質がある。

Triumph Bonneville T120 modern classic motorcycle Photo: 2017 Bonneville T120 CSNDCC1 by AmenMoto, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)

270度クランクという心臓部の設計判断

Modern Classics の中核を成すのが、900cc と 1200cc の二種類の水冷並列二気筒ユニットである。型式名でいえば 900cc 系が「T100」「Street Twin」「Street Scrambler」などに、1200cc 系が「T120」「Speed Twin 1200」「Thruxton RS」などに搭載される。いずれも DOHC 8バルブで、クランク位相は270度。この270度クランクという選択が、シリーズ全体の性格を決定づけている。

360度等間隔爆発の並列二気筒は、振動特性として一次振動が大きく出る。かつてのメリデン時代のボンネビルはまさにこの形式で、鼓動感と引き換えに高回転域での振動が顕著だった。一方、180度クランクは振動こそ抑えやすいが、排気干渉と音質の面でブリティッシュツインらしさが薄れるとされる。270度クランクは、不等間隔爆発によってVツインに近い脈動感を生み出しつつ、バランサーシャフトとの組み合わせで高回転域の不快な振動を抑制する。トライアンフがこの位相を選んだのは、「旧いボンネビルの鼓動を、現代の快適性の中で再現する」ための落としどころだった。

1200cc 系ユニットの場合、メーカー公称で最高出力は約100PS(T120)から105PS(Speed Twin 1200、2024年モデル以降)。900cc 系は65PS前後とされる。この数字だけ見ると控えめに映るが、トルクの出方が違う。1200cc 系は低中回転域で最大トルク112Nm前後を発生し、3000回転あたりからすでに太い駆動力が立ち上がる設計だ。高回転まで回して絞り出すのではなく、街中の常用回転域で力を使い切れるようにチューニングされている。この思想は、レース由来のスーパースポーツとは明確に異なる。

電子制御の面でも抜かりはない。ライド・バイ・ワイヤによるスロットル制御、複数のライディングモード、トラクションコントロール、ABS——これらが標準装備される。T120のような「見た目は1960年代」の車体に、IMU(慣性計測装置)ベースの介入制御が入っているというのは、考えてみれば相当に倒錯的な構成だが、これこそがModern Classicsの「モダン」の部分である。

Triumph parallel twin engine motorcycle detail Photo by Lothar Spurzem (CC BY-SA 2.0 de) via Wikimedia Commons

📺 関連映像: Triumph Bonneville T120 走行 エンジン音 レビュー — YouTube で検索

T120・Speed Twin・Thruxton——3台の棲み分けと選択の基準

Modern Classics ラインナップの中で、1200cc 系の主力は「Bonneville T120」「Speed Twin 1200」「Thruxton RS」の三機種に集約される。外見はいずれもクラシカルな英国車然としているが、設計思想と走行特性はかなり異なる。

Bonneville T120 はシリーズの正統的な中心軸だ。ホイールベースは長めに取られ、シート高は約790mm。前後17インチのワイヤースポークホイールにチューブタイヤという構成は、旧来のボンネビルの佇まいをもっとも忠実に再現している。サスペンションはフロントがφ41mmの正立フォーク、リアはツインショック。足回りはあくまで快適性寄りで、峠を攻めるための設計ではない。「長距離を淡々と流す」「街中の移動手段として使う」——そういう用途に対して、過剰でも不足でもない性能を提供する。

Speed Twin 1200 は、T120と同じエンジンをベースにしながら、よりスポーティな方向へ振った一台である。フレームは共通部分が多いが、フロントフォークの仕様が異なり、キャスター角がやや立ち気味。車重はT120より10kg以上軽い(メーカー公称の装備重量で約216kg)。タイヤはチューブレスのキャストホイール仕様で、ここだけ見ても日常の使い勝手に差が出る。パンク時のリカバリーが容易な点は、ツーリングユーザーにとって地味に効く。2024年以降のモデルでは出力が105PSに引き上げられ、サスペンションもMarzocchi製のφ43mmフォークが奢られている。

Thruxton RS は、同じ1200cc系でもっともスポーツに振ったモデルだった。クリップオンハンドル、バックステップ、Showa製のBPFフォークにÖhlinsのリアサス——この足回り構成は、カフェレーサーの形式美を現代の部品精度で再構築したものだ。ただし2024年の時点でThruxton RSはラインナップから一時外れており、後継モデルの動向が注目されている。欧州の排ガス規制Euro 5+への対応が関係しているとされるが、メーカーからの公式な説明は限定的だ。

この三台を比較したとき、選択の基準は明確だ。「佇まい重視で長く乗りたいならT120」「軽快さと日常性の両立ならSpeed Twin」「カフェレーサーの文法に正面から付き合いたいならThruxton系」。同じエンジンを積みながら、ハンドル位置・ステップ位置・足回りの構成・車重の違いだけで、ここまで乗り味の方向性を変えられるという点が、Modern Classicsの設計の巧みさである。

Triumph Speed Twin 1200 motorcycle riding Photo by Patrick Fore on Unsplash

カスタムの入口としてのModern Classics——「崩す」余白が設計されている

Modern Classics が単なるノスタルジー商品にとどまらないもう一つの理由は、カスタムの「受け皿」として機能するよう意図的に設計されている点だ。トライアンフ自身が純正アクセサリーカタログを充実させており、外装パーツ、シート、エキゾースト、ハンドルバー、フットペグなど、ボルトオンで交換可能なパーツが数百点用意されている。

この設計思想は、ハーレーダビッドソンのソフテイル系がとってきたアプローチに近い。車体の基本骨格を共有しつつ、外装と機能パーツの組み替えで個体差を出す——いわば「プラットフォーム戦略」のバイク版だ。ただし、トライアンフの場合はエンジンの外観がクラシカルな空冷フィン付きであるため、社外品のカフェレーサー系パーツやスクランブラー系外装との親和性がきわめて高い。ビキニカウルを付ければThruxton的な表情になり、ハイマウントの排気管とブロックタイヤを組めばストリートスクランブラーになる。車体側がその「変身」を拒まない構造になっている。

社外エキゾーストでは、英国の Arrow や Vance & Hines が対応製品を展開しており、欧州のカスタムシーンではBritish Customs(米国)やFree Spirits(イタリア)といったスペシャリストブランドが、フレーム補強プレートからスイングアームキットまで手がけている。日本国内でもトライアンフ専門のカスタムショップが増えており、国産旧車やハーレーに続く「第三のカスタムベース」としての地位を徐々に固めつつある。

ただし一点、注意すべきことがある。Modern Classics は電子制御への依存度が高いため、ECU のマッピング変更なしにエキゾーストやエアクリーナーを交換すると、燃調が大きくずれる可能性がある。キャブレター時代のように「ジェット番手を上げれば済む」という単純な話ではない。この点は、カスタムの敷居を下げると同時に、ある種の天井も設けている。社外のサブコンやフラッシュチューニングサービスが存在するが、保証との兼ね合いは各販売店に確認する必要がある。

cafe racer custom Triumph Bonneville motorcycle Photo by jules:g (BY-NC-SA) via Openverse

📺 関連映像: Triumph Modern Classics カスタム ビルド 紹介 — YouTube で検索

相場と入手性——2026年の現在地

新車価格は、日本市場におけるメーカー希望小売価格で、Bonneville T120が180万円台、Speed Twin 1200が170万円台後半(いずれも2025年モデル時点の公開情報に基づく概数)。欧州市場ではそれぞれ13,000〜14,000ユーロ前後で推移している。BMWのR nineT系やドゥカティのScrambler系と比較すると、ほぼ同等か若干手頃な価格帯に位置する。

中古市場では、2016年以降の第二世代モデルが流通の中心だ。走行距離1万km前後のT120が120〜140万円程度、Speed Twinの初期型(2019〜2021年)が110〜130万円程度で取引されている例が散見される。ただし相場は時期や個体のコンディションによって変動するため、あくまで目安にとどめるべきだ。

部品供給については、現行モデルであるがゆえに純正部品の入手は容易だ。トライアンフ・ジャパンの正規ディーラー網は全国に展開されており、パーツの取り寄せに要する期間も国産車に比べて極端に長いということはない。ただし一部の外装部品(ペイント済みタンクやサイドカバー)は英国からの取り寄せとなり、数週間を要する場合がある。

消耗品のコストは、国産の同排気量帯ネイキッド(たとえばカワサキ Z900RS)と比較して若干高い程度で、維持費が跳ね上がるような構造ではない。オイル交換のサイクルはメーカー推奨で10,000kmまたは12ヶ月ごととされている。

Triumph motorcycle dealership showroom Photo by Atom Riders on Unsplash

まとめ——「ヘリテージ」とは設計の態度である

トライアンフの Modern Classics は、「古い形が好きな人のための妥協の産物」ではない。270度クランクの選択、水冷エンジンへの空冷フィンの統合、電子制御とクラシカルな外装の共存——そのすべてが、「過去の何を残し、何を捨てるか」という設計判断の集積だ。ノスタルジーに寄りかかるのではなく、ノスタルジーを工学で裏打ちする。その態度こそが、このシリーズを2016年の登場から10年近く経った現在でも第一線にとどめている理由である。

T120を選ぶか、Speed Twinを選ぶか、あるいはかつてのThruxton RSの後継を待つか。その判断は、ライダーが「ヘリテージ」という言葉に何を求めるかによって変わる。速さか、佇まいか、カスタムの余白か。いずれを選んでも、ヒンクレー工場の回答は一貫している。「古く見えるものを、古く作りはしない」——それがModern Classicsの設計哲学だ。

より深くこのシリーズの背景を知りたい向きには、Ian Falloon 著『The Complete Book of Classic and Modern Triumph Motorcycles』(Motorbooks刊)が、メリデン時代からヒンクレー再建期までを網羅した基本文献として有用だ。また Peter Henshaw 著『Triumph Bonneville Bible』(Veloce Publishing刊)は、ボンネビルの全世代を横断的に扱っており、現行モデルの設計が過去のどの要素を引き継いでいるかを理解する補助線になる。国内誌では『RIDERS CLUB』2019年8月号がModern Classicsの比較試乗特集を組んでおり、バックナンバーで入手可能であれば参照する価値がある。


本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。

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