電動バイクカスタムという流儀──Zero・LiveWire・DAB Motorsが切り拓く回路の美学
ガソリンの鼓動なき時代に、ビルダーたちはどう「自分の一台」を仕立てるのか。電動カスタムの現在地を構造から読む。
排気音のない荒野で、何を削り、何を足すのか
カスタムバイクの文化は、長いあいだ内燃機関と不可分だった。キャブレターのセッティング、エキゾーストの取り回し、ヘッドの面研。ビルダーの腕は「エンジンをどう仕立てるか」で測られてきた。ところが2020年代に入り、電動プラットフォームをベースにした本格的なカスタムビルドが、少数ながら確実に積み上がり始めている。Zero Motorcycles、Harley-Davidson傘下のLiveWire、フランスのDAB Motors──プラットフォームの性格はそれぞれ異なるが、共通するのは「内燃機関のセオリーが通用しない領域」で手を動かすビルダーが現れたという事実だ。
電動バイクのカスタムは、ガソリン車のそれとは出発点が違う。排気系が存在しない。変速機構がない(多くの電動バイクはダイレクトドライブか単速ギア)。冷却系は水冷や空冷ではなくバッテリーのサーマルマネジメントが主題になる。つまり、従来のカスタムで主役だったパーツ群の大半が「ない」。この制約は、逆に言えばビルダーにとって巨大な白紙でもある。削るべきものが少ないぶん、「足す」思想と「見せる」構造が問われる。2026年現在、電動カスタムはまだニッチだが、その方法論にはガソリン車のカスタムにはない設計上の自由度と、別種の困難とが共存している。
Photo by Stefan Lehner on Unsplash
Zeroという素材──モジュラー構造が許す自由
Zero Motorcyclesは2006年にカリフォルニア州サンタクルーズで創業し、量産電動バイクの先駆として知られる。同社のSRシリーズやSR/Fは、アルミ鋳造のメインフレームにバッテリーパックとモーターをユニット化して搭載する構造を採る。この設計は、内燃機関車のようにエンジンが構造部材を兼ねる(いわゆるストレスメンバー方式)こととは根本的に異なる。バッテリーパック自体はフレームの剛性に寄与しない設計であるため、フレームとパワートレインを独立して扱える余地がある──少なくとも理論上は。
カスタムビルダーにとってZeroが「素材」として魅力的なのは、このモジュラー性だ。モーターユニットとバッテリーパックを降ろし、外装とフレーム補器類だけを再構成するアプローチが成立する。実際、北米やヨーロッパのビルダーがZero SRをベースにカフェレーサー風やトラッカー風の外装を架装した事例は、各種メディアやSNSで散見される。
ただし、注意すべき点がある。Zeroのバッテリーマネジメントシステム(BMS)は独自のプロトコルで制御されており、サードパーティが容易にアクセスできる仕様ではない。ガソリン車であればECUのリマッピングやサブコンの追加で出力特性を変えるのが一般的だが、電動バイクの場合、BMSとインバーターの制御ロジックに手を入れることは安全上のリスクが大きく、メーカー保証も当然失われる。結果として、現時点での電動カスタムの多くは「外装とポジション」の領域に集中する。足回りの換装(フォークやリアショック、ホイール)は内燃機関車と同じ手法が使えるが、パワートレインの「チューニング」はほぼ手つかずのフロンティアだ。
Zeroは近年、SR/Fで最高出力110hp(メーカー公称)、車両重量は約220kg(SR/F Premium、公称値)というスペックを公表している。同クラスの内燃機関ネイキッド──たとえばヤマハMT-07の公称乾燥重量が約184kgであることを考えると、バッテリー重量の存在は依然として大きい。この重量配分の特殊性──低重心だが絶対重量が重い──が、カスタムにおけるフレームワークの考え方にも影響を与えている。
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LiveWireの「ブランド分離」が意味したもの
Harley-Davidsonが2019年に発売したLiveWire Oneは、同社初の量産電動モデルだった。その後2022年に「LiveWire」は独立ブランドとして分社化され、ハーレーの伝統的な空冷Vツインの世界観とは明確に切り離された。この判断は、電動バイクが既存のハーレー顧客層──クルーザーやツアラーを好むライダー──とは異なる市場を狙う必要があるという認識の表れだった。
LiveWire Oneのパワートレインは永久磁石同期モーターで、公称最高出力は約105hp、最大トルクは約116Nm。0-100km/h加速が3秒台とされる瞬発力は、電動モーターの特性──回転数ゼロから最大トルクを発生する──を如実に示す。車両重量は約210kg(公称)。バッテリーはリチウムイオンで、容量は15.5kWhとされる。
カスタムの文脈でLiveWireが興味深いのは、そのデザイン言語がハーレーの伝統とは完全に断絶している点だ。ティアドロップタンクもディープフェンダーもない。むしろストリートファイター的なミニマリズムに振っている。これはビルダーにとって「ハーレーだから」という文脈を持ち込みにくいことを意味する。チョッパーやボバーといったハーレーカスタムの伝統的文法がそのまま適用できない。
一方で、LiveWireの車体構造──アルミフレームにモーターをストレスメンバー的に組み込む設計──は、外装の自由度という点ではZeroと異なるアプローチを見せる。モーターユニットが車体剛性の一部を担う構造であるため、フレームだけを独立して加工する余地は限定的になる。ビルダーが手を入れるとすれば、サブフレームの再設計、シート周りの造形、灯火類の刷新、そして足回りの換装が現実的な選択肢だ。
注目すべきは、2024年にLiveWireが発表した「S2 Del Mar」だ。よりコンパクトなプラットフォーム「ARROW」を採用し、車両重量を約200kg以下に抑えたとされる。このプラットフォームの登場により、よりライトウェイトな電動カスタムのベース車両としての可能性が開けた。価格帯もLiveWire Oneより引き下げられており、カスタムベースとして手を出しやすくなったという見方もある。
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📺 関連映像: LiveWire S2 Del Mar electric motorcycle review — YouTube で検索
DAB Motors──フランスの小さな工房が示す「電動の美学」
電動バイクカスタムの文脈で、大手メーカーとはまったく異なるアプローチを取るのがフランス・ボルドーに拠点を置くDAB Motorsだ。創業者のSimon Dabadie氏が2018年に立ち上げたこの小規模メーカーは、「DAB 1α」という電動バイクで注目を集めた。
DAB 1αの特徴は、車体設計そのものがカスタムの文法で語られている点にある。削ぎ落とされた外装、露出したフレームワーク、ハブセンターステアリングの採用──これらは量産効率ではなく造形的意志によって選択されている。公称スペックとして最高速度は約120km/h、航続距離は市街地モードで約100km前後とされており、高速巡航を前提としたマシンではない。あくまで都市部での使用と、所有する喜びに軸足を置いた設計思想だ。
DABの存在が示唆するのは、電動バイクのカスタムにおいて「大手メーカーの量産車をベースに手を入れる」という従来のカスタム文化のモデルとは別に、「最初からカスタムとして設計・少量生産する」という経路が成立しうるということだ。内燃機関の時代にも、ビューエルやコンフェデレート(現カーティス)のような小規模メーカーが独自のエンジンと車体設計で存在感を示してきたが、電動パワートレインはその参入障壁をさらに下げる可能性がある。モーターとバッテリーは、エンジンほどの開発・製造コストを要しないとされるからだ。
もっとも、BMSの開発、安全認証の取得、バッテリーセルの調達と品質管理は決して容易ではない。DABのようなメーカーが持続的に事業を展開できるかは、まだ不透明な部分が多い。しかし、この種の小さな工房が電動という新しい動力源を得て、造形と走りの両面で独自の回答を出し始めていることは、カスタム文化の地殻変動として記録に値する。
Photo by Daesun Kim on Unsplash
技術的核心──バッテリー配置が変えるカスタムの文法
電動バイクのカスタムを語る上で避けて通れないのが、バッテリーパックの物理的制約だ。ガソリン車であれば、タンクの容量を減らしてスリムなシルエットを作る、エンジンを載せ替えてフレームを組み直す、といった手法が確立されている。しかし電動バイクの場合、バッテリーパックはエンジンとガソリンタンクの両方の役割を兼ねる──動力源であると同時に、車両重量の大部分を占めるマスでもある。
ZeroのSR/Fを例に取ると、バッテリーパック(ZF14.4)は車体中央に縦置きされ、その重量は公称で車両全体の約半分近くを占めるとされる。この巨大なマスの配置が、カスタムにおける造形の自由を大きく規定する。ガソリン車のようにタンクを小さくしてフレームのラインを見せる、あるいはエンジンを丸裸にして機械美を誇示する──こうした手法は、バッテリーパックという「黒い直方体」の前では成立しにくい。
ここで生まれるのが、バッテリーパックをどう「見せる」か、あるいは「隠す」かという設計上の問いだ。現状のカスタムビルドでは、バッテリーをカウルやシュラウドで覆い、その上に独自の造形を載せるアプローチが多い。一方で、バッテリーセルの配列そのものをデザイン要素として露出させる試みも少数ながら存在する。内燃機関のフィンやヘッドカバーが持っていた「機能美」に相当するものを、電動パワートレインのどこに見出すか──これは2026年現在、まだ答えの出ていない問いである。
もうひとつ、電装系の設計自由度も重要だ。電動バイクはそもそも車両全体が電気で動くため、灯火類やメーター、制御系への電力供給はガソリン車よりシンプルになる可能性がある。高圧系(モーター駆動用)と低圧系(灯火・制御用)の分離は安全上の必須事項だが、低圧系に関しては12Vの補機バッテリーを介さず、DC-DCコンバーターで直接降圧する設計が一般的とされる。この構造は、カスタムにおける電装の取り回しを簡素化する可能性を持つ一方、高圧系への不用意なアクセスは感電や発火のリスクを伴うため、ガソリン車以上に専門知識が要求される領域でもある。
Photo by Wesley Tingey on Unsplash
📺 関連映像: Zero SR/F electric motorcycle custom build — YouTube で検索
まとめ──回路の時代に、ビルダーは何を残すのか
電動バイクのカスタムは、2026年現在、まだ黎明期にある。Zero、LiveWire、DAB Motorsという三つのプラットフォームは、それぞれ異なる設計思想と異なる制約を持ちながら、共通して「内燃機関のカスタム文法では語りきれない領域」を突きつけている。
現時点での電動カスタムの主戦場は外装とポジション、足回りの換装に限られ、パワートレインそのものへの介入はごく限定的だ。BMSやインバーターの制御ロジックがオープン化されない限り、ガソリン車のようなチューニング文化が電動バイクに根づくには時間がかかる。しかし、そのぶん造形──フレームワークの意匠、マスの見せ方、灯火類のデザイン──に集中できるという見方もできる。
相場と入手性の面では、Zeroの中古車が北米市場で徐々に流通量を増やしつつあり、日本国内でも正規代理店を通じた新車購入が可能だ。LiveWireは日本市場への正式展開が限定的であり、DABは受注生産に近い体制のため、ベース車両の入手自体がひとつのハードルになる。それでも、電動パワートレインの構造的なシンプルさ──可動部品の少なさ、オイル交換の不要──は、長期的なメンテナンスコストの低減という点で、カスタムベースとしての合理性を持っている。
排気音のないバイクに、ビルダーはどうやって「魂」を込めるのか。その答えはまだ出揃っていない。だが、答えが出ていないからこそ、この領域には手つかずの可能性が広がっている。
電動バイクカスタムの背景をより深く知りたい向きには、Karl Engeler著『The Electric Motorcycle: Racers, Conversions, Customs』が電動二輪の改造事例を網羅的に扱っており、出発点として有用だ。国内では『カスタムバーニング』2024年4月号が電動モビリティとカスタム文化の接点を特集している。また、Chris Hunter編『Bike EXIF: The Ride - 2nd Gear』(Gestalten刊)は電動・内燃を問わず世界のカスタムビルドを高解像度の写真で収録しており、造形のインスピレーション源として手元に置く価値がある。
Photo by Karen Roe from Bury St Edmunds, Suffolk, UK (BY) via Openverse
本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。
📚 この記事で紹介した書籍
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The Electric Motorcycle: Racers
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Conversions
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Customs
Karl Engeler
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カスタムバーニング 2024年4月号
造形社
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