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2026-06-30カスタム

Untitled Motorcycles――ロンドンとサンフランシスコを往復する建築家くずれの流儀

Hugo Ecclesが率いるUntitled Motorcyclesの設計哲学、代表作の構造、カスタム業界における立ち位置を解剖する。

Untitled Motorcycles――ロンドンとサンフランシスコを往復する建築家くずれの流儀
Photo by Soroush golpoor · Source

建築の文法でオートバイを書く男

カスタムバイクの世界には「元建築家」を名乗るビルダーが少なくないが、Hugo Eccles(ヒューゴ・エクルズ)の場合、その肩書きは経歴の飾りではなく、完成車のあらゆる面に刻まれている。Untitled Motorcycles(アンタイトルド・モーターサイクルズ)は、ロンドンとサンフランシスコの二拠点を構えるカスタムスタジオとして知られる。同工房が世に送り出す車両は、一見してミニマルだ。だが、よく観察すると、そのミニマリズムの根拠が建築設計の手法——構造体の露出、負荷経路の可視化、素材の選択理由の明示——に由来していることがわかる。

エクルズはイギリス生まれ。ロンドンの建築事務所で実務を積んだのち、サンフランシスコに渡った。二輪のカスタムを本業に据えたのは2010年代初頭とされる。当初はロンドンのワークショップを拠点にしていたが、のちにベイエリアにも工房を設け、大西洋を挟んだ二拠点体制で製作を続けている。ビルダーが一つのガレージに腰を据え、土地に根を下ろすのが一般的なこの業界で、「大陸をまたぐ」という運営形態そのものが異質である。

Untitledの名が広く知られるようになったきっかけのひとつは、2019年にZero Motorcyclesとの協業で製作された電動バイクのコンセプトモデルだ。Zero SRをベースに、量産フレームの見え方を建築的に再解釈したこの車両は、「Untitled x Zero XP」として各メディアに取り上げられた。電動パワートレインのカスタムビルドは、当時すでに少数のビルダーが手掛けてはいたが、モーターサイクルの「乗り味」ではなく「構造体としての美」に焦点を当てたアプローチは、カスタム業界でも議論を呼んだ。

custom motorcycle minimal design workshop Photo by Evgeny Ndn on Unsplash

二拠点という異例の構造

Untitled Motorcyclesがロンドンとサンフランシスコの両方に足場を置く理由は、単なる市場拡大だけでは説明がつかない。エクルズ自身が建築のバックグラウンドでロンドンの設計文化に根を持ちつつ、カリフォルニアの自由な車両カスタム環境——とりわけ排ガス規制の枠組みが州ごとに異なるアメリカの法体系——を活用しているとみるのが妥当だろう。

ロンドン側のワークショップは、デザインの初期段階とクライアントとの打ち合わせに使われることが多いとされる。一方、サンフランシスコ側では実際の金属加工やフレーム改修、電装の組み込みが行われるという報道がある。ただし、両拠点の役割分担がどこまで厳密かは外部からは判然としない。確かなのは、完成車がヨーロッパのクライアントにもアメリカのクライアントにも納車されているという事実だ。

この二拠点制は、カスタムビルダーのビジネスモデルとしても注目に値する。多くの個人ビルダーは一つのガレージで年間数台を仕上げ、工賃と部品代で事業を回している。Untitledの場合は、車両の製作と並行して、企業とのコラボレーションやデザインコンサルティングも手掛けており、純粋な「ガレージビルダー」というよりは「デザインスタジオが二輪を媒介に動いている」という表現のほうが実態に近い。Zero Motorcyclesとのプロジェクトのほか、過去にはTriumphやMoto Guzziをベースにしたビルドも発表されており、ドナー車種の幅広さもその設計志向を裏付けている。

San Francisco motorcycle garage custom build Photo by Chiara Bertinetti on Unsplash

建築的カスタムの実際——構造と素材の選択

Untitled Motorcyclesのビルドに共通する特徴は、「引き算のデザイン」と一言で片付けられがちだが、実際にはもう少し精密な話だ。エクルズのアプローチは、ベース車両のフレームジオメトリをなるべく維持したまま、外装——タンク、シート、フェンダー——の造形で車体の視覚的なプロポーションを変える手法が中心とされる。フレームそのものに大幅な改修を加えるハードコアなチョッパービルダーとは、出発点が異なる。

この方針には構造上の合理性がある。量産フレームのジオメトリは、メーカーが相応のテストを経て決定したものであり、ステアリングヘッドの角度やスイングアームのピボット位置を変更すれば、操安性に予測しにくい影響が出る。フレームを「所与の構造体」として尊重し、その上の「被覆」を再設計するという方法は、建築における改修設計の考え方と重なる。既存の躯体は残し、ファサードとインテリアを作り替える——いわゆるリノベーションの発想だ。

素材選択にも建築的な論理が見える。Untitledのビルドでは、アルミニウムの板金加工が多用されるが、単にアルミを叩いて曲げるだけではなく、溶接ビードの処理や表面仕上げに独特のこだわりがある。一般的なカフェレーサービルドでは、タンクやテールカウルのアルミ板金はブラシ仕上げかポリッシュが定番だが、Untitledの作例では部分的にサテン仕上げを施し、光の反射を面ごとに制御しているものがある。これは建築の外壁設計で使われるマテリアリティ(素材感の演出)の手法と通底している。

もうひとつ注目すべきは電装系の処理だ。現代のカスタムバイクでは、純正のワイヤーハーネスを簡略化してMotogadgetなどのデジタルコントロールユニットに置き換えるのが主流になりつつあるが、Untitledのビルドでもこの手法が採られているとされる。ハーネスの簡素化は見た目のクリーンさだけでなく、重量削減と故障点の低減にも寄与する。ただし、純正ハーネスを社外ユニットに置き換える作業は、各センサーの信号規格(パルス信号か抵抗値変化か)を正確に把握しなければ成立しない。とりわけ近年のインジェクション車をベースにする場合、ECUとの通信プロトコルを崩さずにハーネスを削るには相応の電装知識が要る。この領域こそ、見た目のデザインだけでは語れないUntitledの技術的な地力が出る部分だ。

aluminum tank motorcycle fabrication custom Photo by Jacob Hodgson on Unsplash

📺 関連映像: Untitled Motorcycles Hugo Eccles custom build — YouTube で検索

電動バイクへの接近——Zero XPが示したもの

2019年に発表された「Untitled x Zero XP」は、Untitled Motorcyclesの名を電動モビリティの文脈にも載せた一台である。ベース車両はZero SR。リチウムイオンバッテリーとブラシレスモーターで構成されるZeroの量産パワートレインをそのまま活かしつつ、フレームの露出部分を意匠の核として見せるデザインが採用された。

内燃機関のカスタムバイクでは、エンジンそのものが彫刻的な存在感を持つ。空冷フィンの並びや排気管の曲がりは、それ自体が視覚的な言語になる。だが、電動バイクではモーターとバッテリーが箱型のユニットに収まるため、「見せるべきオブジェクト」が乏しい。ここでエクルズが取った手法は、フレームのパイプワークそのものを「見せる構造」として再定義することだった。トラスフレームの各部材が荷重をどう受け持つかを視覚的に明示する——これもまた、建築の構造表現主義に通じる考え方だ。

Zero XPは量産化されたわけではないが、カスタムビルダーが電動プラットフォームとどう向き合うかという問いに対する一つの回答として、業界内で一定の評価を得たとされる。電動バイクのカスタムは、バッテリーの安全性やBMS(バッテリー・マネジメント・システム)の改変リスクがあるため、内燃機関車ほど自由にはいかない。Untitledが「パワートレインに手を入れない」方針を取ったのは、美学だけでなく安全面の判断でもあったと推察される。

電動バイクのカスタム市場はまだ黎明期にある。しかし、欧州を中心に内燃機関への規制が年々厳しくなる中で、カスタムビルダーがEVとどう折り合いをつけるかは、今後の業界全体の課題になる。Untitledの電動ビルドは、その最初期の事例として記録される価値がある。

Zero Motorcycles electric motorcycle custom concept Photo by Angry._.Kat on Unsplash

カスタム業界における立ち位置——美術寄りか実用寄りか

Untitled Motorcyclesの仕事を語るとき、避けて通れないのが「乗る車両か、見る車両か」という論点だ。同工房のビルドは、写真映えする造形と洗練された色彩設計で、デザイン系メディアやアート系プラットフォームでの露出が多い。一方で、実走行を前提としたカスタムバイクとしての評価——サスペンションセッティングの追い込み、ブレーキ系の強化、長距離走行時の快適性——については、外部からの情報が限られている。

この点は批判材料にも称賛材料にもなり得る。カスタムバイクの世界には、「走ってナンボ」を信条とするビルダーと、「造形の完成度こそ至上」とするビルダーが共存している。前者の代表格はDeus Ex MachinaやWrenchmonkeesのような「乗り倒す」カルチャーを打ち出す工房であり、後者にはハイエンドなショーバイクを専門に手掛けるビルダーが含まれる。Untitledはその中間——走行可能だが、造形の優先度が高い——に位置づけられることが多い。

ただし、フレームジオメトリを維持するという先述の方針は、走行性能を犠牲にしないための設計判断でもある。見た目だけを追求するなら、フレームを切り詰めて極端なプロポーションにするほうが手っ取り早い。それをしない点に、エクルズの建築家としての規律が見える。構造の合理性を崩さずに、意匠で差をつける。言い換えれば、Untitledのミニマリズムは「削る快楽」ではなく「削れる根拠を持つ削り方」だ。

クライアント層についても触れておく。二拠点制とコラボレーション志向から推察されるように、Untitledの顧客はいわゆるガレージビルダー文化圏のライダーよりも、デザインや建築のバックグラウンドを持つ専門職や、モーターサイクルを生活空間の延長として捉える層が中心とされる。車両の価格帯は公開されていないが、アルミ板金のフルカスタムと電装の刷新を含むビルドであれば、相応の費用がかかることは想像に難くない。

cafe racer custom motorcycle London urban Photo by Dan Burton on Unsplash

📺 関連映像: Untitled Motorcycles Zero XP electric custom — YouTube で検索

まとめ——この工房が指し示す方角

Untitled Motorcyclesの仕事は、カスタムバイク文化のある種の転換点を映し出している。エンジンの鼓動や排気音という感覚的な魅力ではなく、構造体としてのオートバイの美を設計言語で語ろうとする試みだ。それが内燃機関車においても電動車においても一貫している点に、Hugo Ecclesの方法論の強度がある。

ロンドンとサンフランシスコを往復するという運営形態は、カスタムビルダーのビジネスモデルとしては特異だが、デザインスタジオとしては理にかなっている。二輪を「作品」として位置づけるか「道具」として位置づけるかで評価は分かれるだろうが、少なくともその造形の根拠が明確であることは、多くのビルドに共通する美点だ。

現在のカスタム市場において、Untitledのようなアプローチはまだ少数派である。しかし、電動化の波が押し寄せ、エンジンという「見せる中心」を失った車体をどうデザインするかが問われる時代には、建築的な構造表現は有力な回答のひとつになり得る。

もっと深く知りたい方には、Chris Hunter編『Bike EXIF: The Ride – 2nd Gear』(Gestalten刊)が、Untitledを含む世界のカスタムビルダーを高解像度の写真とともに紹介しており、手元に置く価値がある。また、Kevin Maher著『The Craft of Custom: Classic and Contemporary』は、カスタム文化の系譜を古典から現代まで辿る一冊として参考になる。国内誌では『カスタムバーニング』2019年2月号が海外ビルダーの特集を組んでおり、当時の文脈を知る手掛かりになる。


本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。

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