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2026-05-29旧車・名車

カワサキ W1/W3 ── メグロの血を引くバーチカルツインが、いまだに手放せない理由

メグロK系から連なるW1/W3の設計思想と変遷、エンジン構造の核心、現在の相場と入手性を解きほぐす。

カワサキ W1/W3 ── メグロの血を引くバーチカルツインが、いまだに手放せない理由
Photo by mrrobertwade (wadey) · Source

624ccバーチカルツインの出自──メグロという地層

カワサキのW系を語るとき、メグロ製作所の存在を避けて通ることはできない。1960年代初頭、経営難に陥ったメグロを川崎航空機工業が吸収し、その技術資産のなかで最も大きかったのが直立並列2気筒エンジン──いわゆるバーチカルツインだった。メグロが1950年代後半に世に出したK系(スタミナ K1/K2)は、英国BSA A7/A10の設計を範としつつも独自の鋳造技術で仕上げた500ccOHVツインであり、当時の日本製大排気量車としては異例の完成度を持っていたとされる。

カワサキがこのエンジンをベースに排気量を624ccへ拡大し、1966年に「650-W1」として市場に送り出したのがW系列の始まりである。公称出力は当時のカタログで47ps/6,500rpm。クランクケースの基本骨格、カムシャフトの駆動方式(ギアトレーン)、シリンダーのボア×ストローク比に至るまで、メグロKの設計思想が色濃く残った。ここで押さえておきたいのは、W1が「英国車のコピー」と片付けられがちだが、実態としてはメグロの技術者が英国車を咀嚼し、日本の素材事情と工作精度で再構築したものである、という点だ。BSAのA系とW1のクランクケースを並べれば、鋳肌の処理やボルト配置が異なっていることは広く知られている。メグロからカワサキへ、という系譜を理解してはじめて、W1の「手触り」が何に由来するのかが見えてくる。

Kawasaki W1 vintage motorcycle engine Photo: 1967 Kawasaki W1SS by Chuck Schultz, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 2.0)

W1S、W1SA、W2TT──型式が刻んだ進化の段差

W1は短期間のうちに複数の派生型を生んだ。1968年のW1S(W1スペシャル)では国内市場を意識してセルスターターが追加され、キャブレターもCV型に変更された。メーターまわりのデザインも整理され、いわゆる「実用大排気量車」としての体裁が整った型式である。

同時期に北米輸出向けとして企画されたW2TT(コマンダー)は、対照的にスクランブラー色を強めたモデルだった。アップマフラーにブロックタイヤ、フロントフェンダーの高さ──当時のアメリカ市場が求めていたダート走行可能なロードバイクの文法に沿ったものだが、販売成績は芳しくなかったとされる。理由は明快で、同年にホンダCB750Fourが登場し、さらにカワサキ自身も1972年にZ1(900 Super Four)の投入を控えていた。市場の重心が一気に4気筒へ移った時代の渦中で、バーチカルツインは「旧世代」の烙印を押されつつあった。

しかしW1SAへの改良は続いた。1971年モデルではポイントカバーの形状変更やクラッチ周辺の改良が施され、信頼性の底上げが図られている。年式ごとの差異は外観上わずかだが、ガスケット類やブレーキシューの互換性に影響する部分もあり、部品調達の際には型式と車台番号の照合が欠かせない。こうした「地味だが実質的な改良」の積み重ねが、W系の長寿命を支えた一因である。

Kawasaki W1SA classic motorcycle side view Photo by Paul Kansonkho on Unsplash

エンジン構造の核心──ギアトレーン駆動OHVの意味

W系エンジンの最大の特徴は、カムシャフトをチェーンではなくギアトレーンで駆動するOHVであることだ。クランクシャフトからカムシャフトまでギアが噛み合って動力を伝え、プッシュロッドを介してロッカーアームがバルブを開閉する。この方式は英国車の伝統的な設計に倣ったものだが、チェーン駆動と比較した場合にいくつかの構造的な違いが生じる。

まず、ギアトレーンにはチェーンのような伸びが原理的に発生しない。経年でバックラッシュ(ギアの歯の遊び)がわずかに増える可能性はあるものの、チェーン駆動OHCのようにテンショナーの劣化でバルブタイミングがずれるリスクは低いとされる。その代償として、ギアの噛み合い音──いわゆる「メカノイズ」が常時発生する。W1オーナーが「カムギアの唸り」と表現する、あの独特のメカニカルサウンドはこの構造に起因する。

シリンダーは鋳鉄製で、ボア74mm×ストローク72.6mm。ほぼスクエアに近いボアストローク比であり、650ccクラスとしては比較的高回転まで回る特性を持つと言われる。ただし実際の常用域は3,000〜5,500rpm程度が一般的で、6,000rpmを超えたあたりからバイブレーションが顕著に増す、という評価が雑誌記事や整備書で繰り返し語られてきた。360度クランクの等間隔爆発がもたらす振動は、英国ツインと同じ宿命でもある。

点火系は初期型がポイント式、後期型でもCDI化はされていない。つまり現在もこのエンジンを維持するには、ポイントの調整とコンデンサーの健全性管理が避けられない。社外のフルトランジスタ点火キットに換装する例も多いが、ポイントカバー内のスペースや配線の取り回しに型式ごとの微妙な差異があるため、汎用品をそのまま装着できるとは限らない。

Kawasaki W series vertical twin engine detail Photo by Nandu Vasudevan on Unsplash

📺 関連映像: カワサキ W1 エンジン始動 サウンド — YouTube で検索

W3という到達点──ダブルディスクとフロントフォーク

1973年に登場したW3(650-RS)は、W系列の最終型であり、多くの愛好家が「完成形」と評する存在だ。最大の変更点はフロントブレーキのディスク化。それまでのドラムブレーキからシングルディスクへ移行し、制動力と操作フィーリングが大きく改善された。フロントフォークもインナーチューブ径が拡大され、剛性の向上が図られている。

リアブレーキはドラムのまま据え置かれたが、これは当時の同クラスでは標準的な構成であり、同年代のホンダCB500Fourなども同様の前ディスク/後ドラム構成を採っていた。W3のディスクキャリパーはカワサキ内製ではなく外注品とされ、後にZ系に採用されるものとは異なるタイプである。ブレーキフルードの管理やシール類の交換は、旧車全般に共通する維持課題だが、W3の場合はキャリパーのオーバーホールキットの入手性がやや限られるため、状態の良い中古キャリパーの確保が重要になる。

フレームは基本的にW1系から大きな変更はなく、ダブルクレードル型のスチールフレームである。ステアリングヘッドの角度やスイングアームの長さも概ね踏襲されており、W3を「新設計のバイク」と見るのは正確ではない。あくまで熟成型であり、細部の改良を積み上げた結果として「乗りやすいW」になった、というのが妥当な位置づけだろう。

W3の生産期間は短く、1974年には生産を終了している。カワサキの主力が完全にZ系4気筒へ移行したためであり、バーチカルツインの商品価値が市場で急落した時代の帰結だった。結果として、W3の総生産台数はW1系全体と比べてもかなり少なく、現存する状態の良い個体はさらに限られる。

Kawasaki W3 650RS front disc brake motorcycle Photo: Noji's W3 (52339966320) by Big Ben in Japan from Kawasaki, Japan, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 2.0)

相場と入手性──「手が届く旧車」の残り時間

2020年代に入り、W系の中古相場は明らかに上昇基調にある。かつては100万円前後で程度の良いW1SAが見つかることもあったが、現在は150万〜250万円台が主流の価格帯とされ、フルレストア済みの車両やW3の極上個体になると300万円を超える例も珍しくない。国内のオークションデータや専門店の在庫価格から見る限り、この傾向は今後も続くと考えるのが自然だろう。

部品の供給事情はまだら模様だ。エンジン内部のギア類やクランクシャフトのベアリングは、社外品や互換品がある程度流通している。一方で、純正の外装部品──とくにタンクのエンブレムやサイドカバー、メーターの文字盤など「見た目の純正感」を左右する部品は払底が進んでいる。リプロダクション品も出回っているが、品質のばらつきが大きく、フィッティングに手間がかかるケースも報告されている。

車検の面では、W1/W3は排ガス規制の適用年式以前にあたるため、現行の検査基準では排ガス検査が免除される場合が多い。ただし騒音規制については年式に応じた基準が適用されるため、マフラーの改変には注意が必要だ。純正マフラーの状態維持、あるいは車検対応の社外マフラーの選択が、実走する上での現実的な課題となる。

購入時に最も注意すべきはフレームとエンジンの番号照合である。W系は長い歴史のなかで「載せ替え」「ニコイチ」が横行した時代があり、フレーム番号とエンジン番号の不一致が少なくない。登録上の問題だけでなく、年式ごとの細部の違いが整備やカスタムの際に思わぬ不整合を生むため、購入前の確認は必須だ。

Kawasaki W1 W3 vintage motorcycle collection Photo: 1967 Kawasaki W1SS by Chuck Schultz, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 2.0)

📺 関連映像: Kawasaki W3 650RS 走行 exhaust sound — YouTube で検索

結局この一台は何だったのか

W1/W3は、メグロという企業が培った英国流バーチカルツインの設計思想を、カワサキが量産車として世に出し、最後まで磨き上げた系譜だ。Z1が切り拓いた4気筒の時代に飲み込まれて生産を終えたが、その「古さ」こそが半世紀を経たいま、唯一無二の魅力として機能している。ギアトレーン駆動OHVの機械的な存在感、360度クランクの鼓動、鋳鉄シリンダーの重厚さ──これらは現代の設計思想からは生まれ得ないものであり、そこにW系が手放せない理由がある。

カスタムの方向性としては、英国カフェレーサーの文脈に寄せる手法が根強い人気を持つ一方で、純正の佇まいをできるだけ残す「ストック志向」のレストアも近年は評価が高い。どちらを選ぶにせよ、エンジンの基本構造を理解し、型式ごとの差異を把握しておくことが、長く付き合うための前提条件になる。

W系をより深く知りたい向きには、佐藤康郎著『カワサキW1読本』(スタジオタッククリエイティブ)が型式ごとの変遷と整備の実際を詳しく扱っている。メグロからカワサキへの企業史的な流れを追うなら、小関和夫著『メグロからカワサキへ 日本のオートバイ史の一断面』(三樹書房)が手堅い。また、『ミスター・バイクBG』2019年4月号(モーターマガジン社)ではW系の特集が組まれており、バックナンバーが入手できれば目を通す価値がある。


本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。

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