Toschi兄弟の流儀──ミラノ発 Plan B Motorcycles が鉄とアルミに刻む手仕事の輪郭
イタリア・ミラノを拠点にToschi兄弟が営むカスタム工房Plan B Motorcyclesの設計思想、代表的ビルド、手仕事の技術を読み解く。
カスタムの「プランB」を名乗る覚悟
イタリアのカスタムバイクシーンと聞くと、多くの人はまずドゥカティやモト・グッツィの名を思い浮かべる。しかしミラノの街外れで、日本車や英国車のドナーマシンを解体し、板金ハンマーとイングリッシュ・ホイールで外装を叩き出しているのがPlan B Motorcycles──Toschi兄弟の工房である。「Plan B」という名は、既存のメーカー完成車がPlan Aだとすれば、それとは別の道筋を自らの手で引き直すという意志表明に読める。
この工房が注目を集めたのは2010年代半ば以降のことだ。ヨーロッパのカスタムシーンでは、ポルトガルのTon-Up GarageやスペインのCafe Racer Dreamsといった南欧勢が台頭し、それまで英米中心だったガレージビルダーの地図を塗り替えていた時期にあたる。そのなかでPlan B Motorcyclesは、派手なメディア露出よりも一台ごとの仕上げの密度で評価を積み上げてきた。Bike EXIFやPipeburn、Return of the Cafe Racersといったカスタムバイク専門メディアに作品が取り上げられ、ヨーロッパ圏のカスタムショーにも出展歴がある。だが日本語圏ではまだ十分に紹介されていない。この記事では、公開されている情報と一般に知られる技術的文脈から、Toschi兄弟の仕事を掘り下げてみたい。
Photo by Andrea Ferrario on Unsplash
ミラノの空気と兄弟の来歴
ミラノはファッションとデザインの都として知られるが、工業都市としての顔もある。ロンバルディア州一帯にはかつて多くの二輪メーカーや部品サプライヤーが存在し、イタリアの二輪産業を底辺で支えてきた。金属加工や革製品の職人が街の各所に残り、手仕事に対する敬意が空気として残っている土地柄である。Plan B Motorcyclesはそうした地盤の上に成り立っている。
Toschi兄弟──Nicola ToschiとSimone Toschiの二人は、もともとバイクへの情熱から独学でメカニクスとファブリケーションを学んだとされる。彼らの経歴について詳細な日本語文献はほとんどないが、海外メディアのインタビュー記事を総合すると、兄弟がそれぞれ異なるスキルセットを持ち寄っている構図が浮かぶ。一人がエンジンや駆動系のメカニカルワークを主に担い、もう一人が金属外装のシェーピングや塗装の方向性を主導する、という分業だ。少人数工房のカスタムビルダーでは珍しくない体制だが、兄弟という関係性は意思疎通の速度において有利に働くだろう。
彼らが好んでドナーに選ぶのは、ヤマハSRやホンダCBといった日本製の空冷シングル・ツイン系、あるいはBMW Rシリーズのボクサーツインなど、カスタムベースとして国際的に定番とされる車両だ。一方でトライアンフのクラシックツインや、ときにはドゥカティも扱う。特定の車種に縛られないところが「Plan B」の名にふさわしい。
Photo: 1979 Yamaha SR500 (6805517070) by Freebird from Madrid, Spain, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 2.0)
板金の手仕事──アルミタンクとシートカウルに見る技術ディテール
Plan B Motorcyclesの仕事で最も目を引くのは、アルミニウム板の手叩きによる外装パーツの造形である。燃料タンク、シートカウル、フェンダー、場合によってはサイドカバーに至るまで、一枚のアルミ板から成形される。この手法はイタリア語で「battitura a mano」(手打ち成形)と呼ばれ、戦前のイタリアのカロッツェリアが四輪のボディワークで確立した技法が二輪に転用されたものだ。
技術的に見ると、アルミの手叩き成形にはいくつかの要素が絡む。まずアルミニウム合金の選定。一般的に二輪のカスタム外装では5000系や6000系のアルミ合金が使われることが多い。5052や5083は加工性と耐食性のバランスが良く、イングリッシュ・ホイール(回転する上下のローラーでアルミ板を挟み、曲面を出す道具)との相性も良いとされる。板厚は1.0mm前後から1.5mm程度が一般的で、薄すぎれば剛性が足りず、厚すぎれば成形に過大な力が要る。
Plan Bの公開写真を見ると、タンクのショルダーラインに鋭いエッジが立っている作品がある。アルミの手叩きで鋭角なプレスラインを出すのは難度が高い。通常は木型や鋼製の当て盤に沿わせてハンマーで叩き出すが、エッジ部分ではアルミが延びすぎると割れ、延びが足りなければラインがぼやける。この精度をどこまで追い込めるかがビルダーの腕の見せどころであり、量産プレスとは根本的に異なる手仕事の領域だ。
タンクの裏面処理も重要な技術ポイントである。ガソリンに長期間触れるアルミタンク内面は、無処理だと酸化や腐食が進行する場合がある。一般にはタンクシーラー(クリームやPOR-15など)を内面に塗布するか、あるいはアルミの耐ガソリン性を信頼してそのまま使うか、ビルダーによって判断が分かれる。Plan Bの具体的な処理方法について公開情報は限られるが、カスタムタンク全般に言えるこの論点は、オーナーとして入手を考える際に確認すべきポイントである。
さらにフレームへのマウント方法も見逃せない。純正タンクはゴムマウントで振動を吸収する設計が多いが、ワンオフのアルミタンクではマウントタブの位置と素材が変わる。溶接部に振動が集中すればクラックが入る可能性もあるため、ラバーグロメットの介在やタブの板厚確保など、目に見えない部分にどれだけ配慮があるかが、見た目の美しさとは別の品質軸になる。
Photo by Markus Spiske on Unsplash
ビルドの哲学──「引き算」と「素材の対話」
カスタムバイクの方向性は大きく二つに分かれる。パーツを足して機能を盛り込む「加算型」と、余計な要素を削ぎ落とす「減算型」だ。Plan B Motorcyclesの公開作品群を通覧すると、明らかに後者の思想が支配的である。
たとえば彼らが手がけたとされるヤマハSRベースのビルドでは、フレームのサブフレームをカットしてループ化し、タンクからシートカウルにかけて一つの流線を描くシルエットに仕上げている。電装はフレーム内やシートカウル裏に極力隠し、外から見える配線を最小限にする。ヘッドライトやメーターも小径のものに置き換え、車体全体の視覚的な重量を下げる方向だ。
この「引き算」は単なるミニマリズムの美学だけではなく、イタリアのデザイン文化に通底する考え方でもある。自動車デザインの世界でジョルジェット・ジウジアーロやピニンファリーナが追求した「一本のラインで語る」思想は、スケールこそ違え、少人数の二輪カスタム工房にも影響を与えているとされる。Plan Bのタンク形状に見える、前方から後方にかけて緩やかに絞られるティアドロップ・シルエットは、1950年代から60年代のイタリアンレーサーに源流を持つ造形だ。
一方で注意すべきは、「引き算」はときに実用性とトレードオフになるという点である。サブフレームの切断やシート形状の変更はフレーム剛性に影響を及ぼしうるし、電装のコンパクト化は整備性を犠牲にすることがある。ショーバイクとしてのPlan Bの作品が持つ完成度と、日常的に走らせる実用バイクとしての要件は必ずしも一致しない。このあたりはワンオフビルドの宿命であり、Plan Bに限らずすべてのカスタムビルダーに共通する論点だ。
📺 関連映像: Plan B Motorcycles custom build Italian — YouTube で検索
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ヨーロッパのカスタムシーンにおける位置づけと相場感
2020年代に入り、ヨーロッパのカスタムバイクシーンは成熟期を迎えている。2010年代前半のカフェレーサー・ブームが一巡し、単にバーエンドミラーとシングルシートを付ければ「カスタム」と呼ばれた時代は終わった。現在は、手仕事のファブリケーション能力、塗装やディテールの仕上げ精度、そして全体のプロポーション感覚でビルダーの評価が分かれる。Plan B Motorcyclesは、この選別の時代にあって生き残っている工房の一つである。
ヨーロッパのフルカスタムビルドの相場は、ドナー車両込みで一般にユーロ建てで1万5,000〜4万ユーロ程度の幅がある(2024〜2025年の公開情報や各ビルダーの過去の取材記事に基づく概数)。日本円に換算すると、おおむね250万〜700万円のレンジとなる。ただしこの金額はドナーの希少度、外装のワンオフ度合い、エンジン内部への手の入れ方で大きく変動する。Plan B Motorcyclesの具体的な価格設定は公式に公開されていないため、断定は避けるが、同規模の南欧系ビルダーの水準から大きく外れることはないと推測される。
日本から入手を考える場合、ユーロ圏のカスタム車両を個人輸入するには、排ガス規制適合の確認、並行輸入車としての予備検査、各種書類の整備が必要になる。カスタム車両は型式認定を受けていないため、一台ごとに排ガス試験や騒音試験が求められるケースがある。2026年現在の日本の保安基準との整合性を事前に確認することが不可欠だ。
むしろ現実的なのは、Plan Bの仕事をデザインの参考として捉え、日本国内のビルダーにオーダーする際のインスピレーション源にする、という向き合い方かもしれない。あるいは渡航の機会にミラノの工房を訪問し、直接コミュニケーションを取るという方法もある。ヨーロッパのカスタムショー──たとえばフランスのWheel & WavesやスペインのPunta di Ferro──に足を運べば、Plan Bを含む各国のビルダーの実車を見る機会が得られる可能性もある。
📺 関連映像: European custom motorcycle show cafe racer scrambler — YouTube で検索
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まとめ──手仕事が問いかけるもの
Plan B Motorcyclesは、巨大な設備も量産ラインも持たない小さな工房だ。しかしToschi兄弟がアルミ板と向き合い、一台ごとにシルエットを決めていく手法は、CADとCNCが支配する現代のものづくりに対するひとつの回答になっている。それは懐古趣味ではなく、素材の特性と人間の手の感覚を直接つなぐ、最も原初的な造形行為の延長線上にある。
彼らの仕事が教えてくれるのは、カスタムバイクの価値は排気量や馬力では測れない、という当たり前のことだ。削ぎ落としたラインの向こうに、どれだけの工程と判断が積み重なっているか。それを読み取れるかどうかが、カスタムバイクを「趣味の乗り物」として見るか「手仕事の表現」として見るかの分岐点になる。
もっと深く知りたい方には、Chris Hunter編『The Ride: 2nd Gear』(Gestalten刊)を薦めたい。ヨーロッパを含む世界中のカスタムビルダーの仕事を高品質な写真と丁寧なテキストで紹介しており、Plan Bのようなビルダーの文脈を理解する手がかりになる。また国内では『カスタムバーニング』の2019年10月号が欧州カスタムの潮流を特集しており、バックナンバーが入手できれば一読の価値がある。さらに原点として、Robert Klanten編『The Ride: New Custom Motorcycles and Their Builders』(同じくGestalten刊)も、2010年代のカスタムシーンを俯瞰するうえで外せない一冊だ。
本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。
📚 この記事で紹介した書籍
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Bike EXIF: The Ride – 2nd Gear
Chris Hunter / Gestalten
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カスタムバーニング 2019年10月号
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The Ride: New Custom Motorcycles and Their Builders
Robert Klanten / Gestalten
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