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TROPHY CLOTHINGという選択──ボバー乗りが裏原育ちのワークウェアに手を伸ばす理由

国産ヴィンテージ系ブランドTROPHY CLOTHINGの設計思想と、ボバーカルチャーとの接点を構造から読み解く。

TROPHY CLOTHINGという選択──ボバー乗りが裏原育ちのワークウェアに手を伸ばす理由
Photo by Dominic Kurniawan Suryaputra · Source

ボバーの足元に、なぜ「裏原の残り香」があるのか

二輪文化における服装の選択は、単なるファッションではない。ボバー──余分な外装を削ぎ落としたアメリカン・カスタムの一形態──に跨がるとき、革ジャンやエンジニアブーツは「乗り手の身体を守る装備」であると同時に、そのバイクが属する文化圏への参入表明でもある。1990年代後半から2000年代初頭にかけて東京・原宿の裏通り──いわゆる裏原──で花開いたストリートブランド群は、ヴィンテージのアメリカン・ワークウェアやミリタリーウェアを咀嚼し、独自の文法で再構成した。その裏原の血脈のなかから、二輪乗りのためのプロダクトを本気で作ろうとしたブランドがある。TROPHY CLOTHING(トロフィークロージング)である。

東京・目黒を拠点に、2005年頃からプロダクトを世に出し始めた同ブランドは、1940〜60年代のアメリカン・ワークウェアとモーターサイクルカルチャーを設計の基底に据えている。だがその出自は、古着屋やバイクショップではなく、裏原系のアパレル畑にある。この交差が、TROPHY CLOTHINGの製品に独特の「解像度」を与えている。ヴィンテージの表層を写すのではなく、なぜその仕様だったのかという構造的理由に踏み込んだうえで、現代の身体と用途に合わせて再設計する。その姿勢は、ボバーを組むビルダーが純正部品の設計意図を読み解いたうえで不要な部分を削る作法と、どこか似ている。

vintage workwear denim jacket motorcycle Photo by Evan Rally on Unsplash

ブランドの輪郭──裏原とオールドスクールの交差点

TROPHY CLOTHINGを語るとき、避けて通れない文脈がふたつある。ひとつは1990年代末〜2000年代初頭の裏原ムーブメント、もうひとつは同時期に日本で深化していたヴィンテージ・レプリカの潮流である。

裏原系ブランドの多くは、アメリカのカレッジウェアやミリタリーサープラス、ワークウェアの意匠を取り込みながら、グラフィックやシルエットで独自の味付けを施した。一方で、倉敷や児島を中心としたデニムメーカー群は、1940〜50年代のリーバイスやリーの旧い仕様──セルビッチデニム、隠しリベット、シンチバックといったディテール──を工業的に再現することに注力していた。TROPHY CLOTHINGの立ち位置は、この両者のあいだ、あるいは両者をまたぐ場所にある。

同ブランドの製品ラインナップを見ると、デニム、チノ、スウェット、ワークシャツ、レザージャケットといったアイテムが並ぶ。一見するとアメカジ系のドメスティックブランドと変わらないように思えるが、各アイテムの仕様書を読むと、「バイクに乗る人間の動作」が設計の前提に組み込まれている痕跡がある。たとえば、デニムジャケットの袖丈と身幅のバランスは、前傾姿勢でハンドルを握ったときに背中が出にくいように取られているとされる。レザージャケットのアクションプリーツの入れ方も、単にヴィンテージの見た目を写したのではなく、ライディング時の肩まわりの可動域を考慮したものだと言われている。

こうした「ヴィンテージの仕様を知ったうえで、現代のライダーの身体に合わせる」というアプローチは、旧車のレストアにおいて純正部品の設計意図を尊重しながら現代の素材や加工技術でアップデートする手法と通底する。ブランドの公式情報によれば、企画段階で実際のヴィンテージウェアを解体し、縫製の順番やステッチの運針数まで記録したうえで、パターンを引き直しているという。この工程は、旧車のフレームを計測してジグを起こすビルダーの仕事に近い。

bobber motorcycle custom workshop leather Photo by Evgeny Ndn on Unsplash

技術ディテール──ダックキャンバスとセルビッチの構造

TROPHY CLOTHINGの製品で技術的に語るべき点は多いが、ここではとくに同ブランドが多用する「ダックキャンバス」と、デニム製品に用いられるセルビッチ生地の構造に焦点を当てる。

ダックキャンバスとは、綿の平織り生地のなかでもとくに密度が高く、耐摩耗性に優れた素材である。名称の「ダック」はオランダ語の「doek」(布)に由来するとされ、アヒルとは関係がない。19世紀のアメリカでは鉱山労働者や鉄道作業員の作業着に広く使われた。カーハートの初期のオーバーオールがダックキャンバスだったことはよく知られている。この素材は、経糸と緯糸を同じ太さ・同じ密度で織るため、綾織り(ツイル)のデニムと比べて表面がフラットで、方向による強度差が小さい。つまり、どの方向から引っ張っても同程度の強度を発揮する。バイクに乗る人間にとって、転倒時にどの方向から地面と擦れるか予測できないことを考えれば、この等方性は合理的な特性である。

TROPHY CLOTHINGのダックキャンバス製品──ベストやワークパンツ──は、この素材を現代の日本の機屋(はたや)で織らせている点が特徴とされる。具体的な機屋名は公式に明かされていないが、旧式のシャトル織機を使った低速織りにより、生地に適度な凹凸と空気を含ませていると言われている。シャトル織機による生地は、高速のレピア織機やエアジェット織機による生地と比べて生産効率は大幅に劣るが、糸に過度なテンションがかからないため、風合いが柔らかく、経年変化が独特の表情を見せるとされる。

デニム製品に関しても、同ブランドはセルビッチ(赤耳)のデニム生地を採用している。セルビッチとは、シャトル織機で織られた生地の耳(端)が自然にかがり処理されている状態を指す。この耳があることで、裁断後の端処理が簡略化できるだけでなく、生地端がほつれにくいという実用的なメリットがある。1980年代以降、大手デニムメーカーがコスト削減のために広幅の高速織機へ移行したことで、セルビッチは事実上「旧い織機でしか作れない」希少な仕様になった。日本のレプリカデニムメーカーが1990年代に世界的な評価を得たのは、この旧式織機を維持・稼働させ続けていたからである。

TROPHY CLOTHINGのデニムは、こうした日本のデニム産業の蓄積の上に成り立っている。だが同ブランドが単なるデニムブランドと一線を画すのは、生地の選定だけでなく、縫製仕様にモーターサイクルカルチャーの文脈を織り込んでいる点である。たとえば、ジーンズの股下の巻き縫い(フェルドシーム)の始末や、バックポケットのリベット補強の位置は、1950年代のアメリカン・ワークウェアの仕様を踏襲しつつ、バイクのシートに跨がったときの縫い目の当たり方を考慮して微調整されていると言われる。

selvedge denim fabric shuttle loom detail motorcycle Photo by Second Breakfast on Unsplash

📺 関連映像: Trophy Clothing ヴィンテージ ワークウェア デニム — YouTube で検索

ボバーカルチャーとの接点──削ぎ落としの美学

ボバーとは、もともと1940〜50年代のアメリカで、市販のモーターサイクル──ハーレーダビッドソンのFLやインディアン・チーフなど──からフェンダーを切り詰め、不要な装備を外し、車体を軽く・速くするために改造されたバイクの総称である。「bob」という動詞には「短く切る」という意味があり、フェンダーをボブ(短縮)したことからこの名がついたとされる。

ボバーの美学は「引き算」にある。純正の設計から何を残し、何を削るか。その判断基準は「走るために必要か否か」である。この思想は、TROPHY CLOTHINGが服を設計するときの姿勢と重なる。同ブランドの製品には、過剰な装飾がない。刺繍やプリントは最小限で、あっても小さなロゴやワンポイントにとどまる。シルエットも、タイトすぎず、ルーズすぎない。1950年代のアメリカの労働者が着ていたワークウェアの「ちょうどいい」分量感を現代の体型に合わせて再現している。

この「引き算の美学」は、日本のボバーシーンにおいても共感を得やすい。日本のボバービルダー──たとえばHeiwa MotorcycleやBrat Styleといった著名ショップ──が組むバイクは、アメリカのボバーよりもさらに繊細で、細部の仕上げに日本的な丁寧さが宿っている。そうしたバイクに跨がるとき、ファストファッションのライダースジャケットではなく、縫製の一針一針に意図が込められた服を選びたいという欲求は自然なものだろう。TROPHY CLOTHINGは、その欲求に対する回答のひとつである。

同ブランドが定期的にリリースするレザージャケットも、ボバー乗りにとって注目に値する。使用される革は、国内のタンナーで鞣されたステアハイド(成牛革)が中心とされ、厚みは一般に1.2〜1.4mm程度と言われる。これは、プロテクター入りのライディングジャケットと比べれば薄いが、1950年代のアメリカのモーターサイクルジャケット──たとえばBucoやBeckの時代──の標準的な革厚とほぼ一致する。つまり、当時のライダーが「これで十分だった」厚みを、現代の鞣し技術でより均一な品質で再現しているとも言える。もちろん、現代のCE規格プロテクターを備えたジャケットと同列に安全性を語ることはできないが、街乗りやショートツーリングにおいて、文化的な文脈と実用性の両立を図る選択肢としての存在意義はある。

bobber motorcycle leather jacket rider Photo by Harley-Davidson on Unsplash

相場と入手性──どこで手に取れるか

TROPHY CLOTHINGの製品は、直営店および全国のセレクトショップ、オンラインストアで取り扱われている。価格帯は、Tシャツで5,000〜8,000円前後、ワークシャツで15,000〜25,000円前後、デニムパンツで20,000〜35,000円前後、レザージャケットで100,000〜180,000円前後というのが公開されている情報からの概数である。国内生産・小ロットのブランドとしては、法外な値段ではない。むしろ、使用されている生地や縫製の仕様を考慮すれば、同等のクオリティを持つ海外ブランド──たとえばアメリカのIron Heart(日本発だが海外展開が先行した経緯を持つ)やイギリスのPike Brothers──と比較しても、割高感はないと言える。

注意すべきは、同ブランドの製品は定番品でも生産数が限られるため、人気のサイズやカラーは発売後早期に完売することがある点である。とくにレザージャケットは、年に数型番・各サイズ少数の生産とされ、予約制で販売されることもある。中古市場では、状態の良い旧モデルがプレミアム価格で取引されるケースも散見される。

実物を確認するなら、東京・目黒の直営店が最も確実な選択肢である。全国のセレクトショップでの取り扱いもあるが、全型番が揃う店は限られる。バイクイベント──たとえばヨコハマ・ホットロッド・カスタムショーや各地のスワップミートなど──に出展していることもあるとされるため、そうした場で実物に触れる機会を探るのもひとつの方法だ。

オンラインでの購入も可能だが、ワークウェアやレザージャケットはサイジングが重要なため、可能であれば一度は実物を確認したい。同ブランドのサイズ感は、アメリカン・ヴィンテージの寸法体系をベースにしつつ日本人の体型に合わせた調整が入っているとされるため、普段着ているアメカジ系ブランドとサイズ感が異なる場合がある。

vintage clothing store tokyo japan workwear motorcycle Photo by ayumi kubo on Unsplash

📺 関連映像: ボバー カスタム バイク ファッション ワークウェア — YouTube で検索

まとめ──削ぎ落としの先にある「選ぶ理由」

TROPHY CLOTHINGは、二輪専業のライディングギアメーカーではない。CE規格のプロテクターも、防水透湿メンブレンも、リフレクターも備えていない。だが、このブランドの製品がボバー乗りやチョッパー乗りに支持される理由は、「バイクに乗る人間の動作と文化的文脈を理解したうえで、ワークウェアを設計している」という一点に尽きる。

裏原の感性で選ばれた素材と、ヴィンテージ・レプリカの精度で再現された縫製仕様。そのふたつが交差する場所に、このブランドは立っている。ボバーという乗り物が「何を削るか」で個性を主張するように、TROPHY CLOTHINGの服は「何を足さないか」で存在感を示す。その引き算の美学が、バイクの引き算と共鳴する。

相場は決して安くはないが、10年着込んだデニムジャケットの経年変化や、使い込んだレザーの表情は、新品では得られない価値を持つ。それは、走り込んだバイクのエンジンのアタリが出てくる感覚に似ている──と書くと感傷的に過ぎるが、長く使う前提で作られたモノを選ぶという行為そのものが、ボバーカルチャーの根幹にある「本質を見極める」という態度と地続きなのだと思う。

もっと深く知りたい人には、以下の資料が手がかりになる。『Lightning』(エイ出版社)の2019年3月号はアメカジ×モーターサイクルの特集で、TROPHY CLOTHINGを含む国内ブランドの設計思想に触れている。『CLUTCH Magazine』(エイ出版社)の2020年10月号も、ヴィンテージ・ワークウェアとバイクカルチャーの接点を掘り下げた一冊である。海外の視点からは、ジェイソン・ジュール著『Bike Style──二輪と服飾の交差点』(Prestel刊)が、モーターサイクルと服飾の関係を写真と論考で俯瞰しており、文化的な背景を理解するのに役立つ。


本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。

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