MOTO BURNINGRIDE LIKE THE WORLD ENDS TONIGHT.
← BACK TO ALL STORIES
2026-06-05カスタム

Ritmo Sereno・中崎志朗という流儀──欧州旧車を「精密に崩す」東京の一門

東京・西東京市のRitmo Sereno、中崎志朗のビルド哲学を構造・設計・歴史的文脈から読み解く。Moto GuzziとBMWを素材にした精密カスタムの核心。

Ritmo Sereno・中崎志朗という流儀──欧州旧車を「精密に崩す」東京の一門
Photo by paulius.malinovskis · Source

「完成品を壊す」ことから始まるカスタム

大量生産の工業製品であるオートバイを、手仕事で組み直す行為がカスタムだとすれば、その起点には必ず「何を壊すか」という選択がある。ボルトオンパーツを足していくドレスアップとは異なり、車体構成の根幹──フレーム、エンジンマウント、スイングアームのピボット位置──にまで手を入れるビルダーは、国内でも数えるほどしかいない。東京・西東京市に工房を構えるRitmo Sereno(リトモ・セレーノ)の中崎志朗(なかじま・しろう)は、そうした少数派の中でもとりわけ独自の立ち位置にいる人物である。

Ritmo Serenoの仕事が特異なのは、ベース車両の選択からして国内カスタムシーンの主流から外れている点だ。Moto GuzziとBMW──イタリアとドイツ、いずれも空冷時代のモデルを主な素材とする。国内のカスタムカルチャーはハーレーダビッドソンか国産4気筒が圧倒的な多数派であり、イタリア車をベースに恒常的にビルドを続ける工房は極めて限られる。にもかかわらず、同工房の名は海外のカスタムメディアにも繰り返し取り上げられてきた。Bike EXIF、Pipeburn、Iron & Airといった英語圏の専門媒体がRitmo Serenoのビルドを紹介した実績があり、国内よりもむしろ海外での認知が先行した時期すらある。

なぜイタリア車なのか。なぜあの造形に至るのか。公開されている情報と、車両構造そのものから読み取れることを手がかりに、Ritmo Serenoの仕事を解きほぐしてみたい。

Moto Guzzi custom cafe racer motorcycle workshop Photo by Atom Riders on Unsplash

Moto Guzziという素材の特異性

Moto Guzziの縦置き90度Vツインは、二輪の動力源としてかなり変則的な存在である。クランクシャフトが車体の前後方向に走り、シリンダーが左右に張り出す。BMWのボクサーツインと同じくシャフトドライブとの相性が良いレイアウトだが、Guzziの場合はシリンダー挟み角が90度のV型であるため、エンジン単体の幅がボクサーほど広くならない。一方で、シリンダーヘッドが車体の両側面に露出するため、車体デザインにおいてエンジンが「顔」になる。ここがカスタムの素材として決定的に重要な点だ。

中崎が好んで手がけるのは、1970年代から1990年代にかけてのGuzzi──V7 Sport、Le Mans、T3、1000Sといったモデル群とされる。これらの時代のGuzziは、トネリ・フレーム(デ・トマソ傘下以前のループ構造)からスパイン・フレーム(角型鋼管を背骨状に通す構造)への過渡期にあたり、フレーム形式だけでも複数の世代が混在する。カスタムビルダーにとっては、異なる世代のフレームとエンジンの組み合わせを検討できる余地があるということでもある。

技術的に注目すべきは、Guzziの縦置きVツインが持つ「トルクリアクション」の問題だ。スロットルを開けるとクランクシャフトの回転反力で車体が右に傾く(あるいはリアが浮く方向に力が働く)という挙動が、このレイアウト固有の特性として知られる。メーカー側はリアクティブリンクやトルクアームといった機構で対策してきたが、フレームやスイングアームに手を入れるカスタムでは、この力の流れを無視できない。Ritmo Serenoのビルドがフレーム補強やピボット周辺の再設計にまで踏み込むのは、見た目の問題だけではなく、このレイアウト固有の構造的要請が背景にあると考えるのが自然だろう。

もう一つ、Guzziの空冷フィンはイタリア車特有の鋳造仕上げで、国産車の精密な機械加工フィンとは表面の質感がまるで違う。鋳肌を活かすか、削り込んで滑らかにするかで車両の表情が一変する。Ritmo Serenoのビルドでは、この鋳肌の処理にかなりの手間がかけられているように見受けられ、「イタリアの工業製品」としての素性を殺さずに精度を上げるという、矛盾した要求を両立させようとする姿勢が窺える。

Moto Guzzi V7 Sport engine detail vintage motorcycle Photo: Moto Guzzi V7 ClassicWP by Moto_Guzzi_V7_Classic.jpg: Snowdog derivative work: Ligabo (talk), via Wikimedia Commons (Public domain)

「精密に崩す」という矛盾の設計

Ritmo Serenoの造形を言葉で伝えるのは難しい。あえて言語化するなら、「量産車のプロポーションを意図的に崩しつつ、各部の仕上げ精度は量産車を超える」という矛盾した方向性だ。

たとえば、タンクのラインは量産車のそれより低く、薄く、前後に長い。シートカウルは極端に絞り込まれ、車体後半の視覚的な重量が削ぎ落とされる。一方で、溶接ビードの処理、アルミ地金の表面仕上げ、ボルトの座面処理といった細部は、量産ラインでは採算が合わないレベルの手間がかけられているとされる。写真で確認できる範囲でも、ワンオフのアルミタンクの面出し、エキゾーストパイプの曲げRの均一性、ステー類のミニマルな断面設計に、一貫した意志が読み取れる。

この「崩す」と「詰める」の同居は、日本のカスタムシーンでは珍しいものではない。しかし多くの場合、その両立は国産車やハーレーという、パーツ供給が潤沢な車両で行われる。イタリアのクラシックGuzziやドイツのBMWでそれを実行するとなると、流用できる既製パーツが極端に少なくなり、必然的にワンオフの比率が上がる。旋盤やフライス盤を自在に扱える金属加工の技量が前提になるわけで、この点がRitmo Serenoの仕事を他のカフェレーサー系ビルダーと分ける境界線だと言える。

もうひとつ注目すべきは色彩の抑制である。同工房のビルドは、アルミ地金のシルバー、黒、ごく控えめなアクセントカラーという限られたパレットで構成されることが多い。ペイントワークで個性を出すのではなく、面と線の構成──つまりシートレールの角度、タンクの頂点の位置、エキゾーストの取り回し──で「Ritmo Serenoらしさ」を成立させている。この方法論は、言い換えれば素体の造形力だけで勝負するということであり、ごまかしが効かない。

aluminum motorcycle fuel tank handmade cafe racer Photo by Charles Snow on Unsplash

西東京という土地、イタリア車という選択

日本のカスタムバイク文化は、ハーレー系が集積する東京・横浜圏、旧車系が強い名古屋・浜松圏、そして大阪を中心とした関西圏と、大まかに分けて複数の地域的な核を持つ。東京・関東にも、欧州車の専門店や個人工房が点在してきた歴史があり、Ritmo Serenoもその文脈の中にある。

イタリア車をベースに選ぶという判断は、ビジネス的には明らかに不利だ。国内でのMoto GuzziやBMWの流通台数は限られ、ベース車両の調達自体がハードルになる。純正パーツの入手性も国産車やハーレーとは比較にならないほど厳しい。それでもなおイタリア車を選ぶ理由は、おそらく先に述べたエンジンレイアウトの造形的な魅力──シリンダーが車体外側に張り出し、エンジンそのものがデザインの主役になるという構造的特性──にあるのだろう。

海外での評価が高いのは、こうしたビルドが「日本のクラフトマンシップ」と「イタリアの設計美学」の交差点にあるからだと考えられる。英語圏のカスタムメディアが日本のビルダーを取り上げる際、しばしば"Japanese craftsmanship"という定型句が使われるが、Ritmo Serenoの場合はそこにイタリア車という素材の希少性が加わる。日本人がイタリア車を組み直すという行為自体に、ある種の文化的越境が含まれており、海外の読者にとってはその二重性が興味の対象になっているように見える。

現在、クラシックGuzziやBMWの中古相場は国際的に上昇傾向にあるとされる。とくにBMW R90SやMoto GuzziのLe Mansは、程度の良い個体であれば数万ドル規模で取引される例も珍しくないと言われる。ベース車両の価格高騰は、こうしたビルダーの仕事のコストに直結する問題でもある。

Moto Guzzi BMW classic motorcycle Photo by Cook aynne on Unsplash

まとめ──Ritmo Serenoの仕事が示すもの

Ritmo Sereno・中崎志朗の仕事は、「カスタムバイク」という言葉が連想させる華やかさや派手さとは距離がある。アルミの面を出し、フレームの角度を詰め、エキゾーストの曲げを揃える。その作業の多くは地味で、完成車の写真だけでは伝わりにくい領域だ。しかし、量産車の設計者が採算と生産性の天秤の上で「ここまで」と線を引いた先に、手仕事で踏み込んでいくのがこの工房の仕事であり、その結果としての車両は、元のMoto GuzziやBMWとは異なる存在感を獲得している。

国内でイタリア車ベースのカスタムを志す人間にとって、Ritmo Serenoの仕事はひとつの座標軸になるだろう。すべてを真似る必要はない。ただ、「なぜこの角度なのか」「なぜこの面なのか」を構造から読み解く訓練として、同工房のビルドを子細に観察する価値はある。

もっとこの領域を深く知りたい向きには、いくつかの資料を挙げておく。エイ出版社の『RIDERS CLUB』2019年3月号にはイタリアンカスタムの特集があり、国内ビルダーの仕事が取り上げられている。造形社の『カスタムバーニング』2016年10月号も、国産以外のベース車両を扱うビルダーに紙幅を割いた号だ。Moto GuzziとBMWの設計史については、Ian Falloon著『The Complete Book of Moto Guzzi』(Motorbooks刊)などが、空冷ツインの構造を理解する上での手がかりになる。

📺 関連映像: Moto Guzzi cafe racer custom Japan — YouTube で検索


本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。

SHARE

📚 この記事で紹介した書籍

PR / アフィリエイトリンク

※ 当サイトは楽天アフィリエイトおよび Amazon アソシエイト・プログラムの参加者であり、適格な購入を通じて報酬を得ています。価格・在庫はリンク先で最新の情報をご確認ください。

Keep ReadingRELATED