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ザ・リアルマッコイズの革ジャン──なぜ日本の工房がアメリカン・ライダースの頂点に立てたのか

ザ・リアルマッコイズが追求するヴィンテージ・ライダースの設計思想、素材選定、縫製技術を構造から読み解く。

ザ・リアルマッコイズの革ジャン──なぜ日本の工房がアメリカン・ライダースの頂点に立てたのか
Photo by Neil. Moralee · Source

「本物のアメリカ」を日本で縫う、という矛盾と覚悟

アメリカン・ヴィンテージの革ジャンを語るとき、ルイスレザーズやショットといった欧米の老舗が真っ先に浮かぶ。だが二輪乗りの間で「原型にもっとも肉薄しているブランド」として名が挙がるのは、神戸に本拠を置くザ・リアルマッコイズ(THE REAL McCOY'S)である。創業は1988年(1990年法人設立)。ヴィンテージのミリタリーウェアやワークウェアを、当時の素材・縫製・副資材の水準まで遡って再現するという、一見すると途方もない試みから始まった。

革ジャンに限って言えば、同社が手がけるのは大きく二系統ある。ひとつはA-2やAN-6552に代表される米軍フライトジャケットの復刻。もうひとつが、本稿の主題であるモーターサイクル・ライダースジャケットだ。とくに「BUCO」の名を冠した一連のライダースは、かつてジョセフ・ビューゲレイゼン社が展開していたヘルメット&ウェアブランドの商標を正規にライセンスし、1950〜60年代のオリジナルを起点に再構築したものとして知られる。日本の工房がアメリカの遺産を引き受け、アメリカ人が「これは本物だ」と認める革ジャンを作る。この構図自体が、ザ・リアルマッコイズという存在の核にある。

vintage leather motorcycle jacket detail stitching Photo by Marija Zaric on Unsplash

ヴィンテージ・ライダースの何を「再現」しているのか

ザ・リアルマッコイズのライダースを語るには、まず「何を再現しようとしているのか」を明確にする必要がある。単に古い型紙を引き写すだけなら、技術力のある縫製工場ならどこでもできる。同社が執着しているのは、型紙の奥にある「設計判断の背景」そのものだ。

1950年代のBUCOライダースを例にとる。当時のJ-24やJ-100といったモデルは、ハーレーダビッドソンやインディアンに跨る北米のライダーたちが実際に着用し、時にはレースにも持ち込んだ。その型紙には、前傾姿勢をとったときに袖が突っ張らないよう計算されたアクションプリーツの入れ方、ライディング中に風の巻き込みを抑える襟の高さと角度、重量のあるホースハイド(馬革)を使いながらも走行中のバタつきを最小限にするための裁断の工夫が凝縮されている。ザ・リアルマッコイズはオリジナルのデッドストックや程度の良いユーズドを蒐集・分解し、縫い代の取り方からステッチのピッチ(縫い目の間隔)、さらにはジッパーの引き手の形状までを記録したうえで型紙を起こしている、と公開情報やインタビューで繰り返し語られてきた。

ここで重要なのは、「当時と同じ」が必ずしも「現代の効率」と両立しない点だ。たとえばジッパー。1950年代のアメリカン・ライダースにはTALON社やCONMAR社のヴィンテージジッパーが使われていたが、現存するデッドストックには限りがある。ザ・リアルマッコイズは副資材メーカーと協業し、当時の仕様を再現した専用ジッパーを製造している。量産効率だけを考えれば、YKKの汎用品を使うほうがはるかに合理的だ。だがスライダーの重み、引いたときのジャリッとした感触、経年で地金が露出する真鍮の質感──これらを「革ジャンの一部」と捉える以上、妥協できないということなのだろう。

BUCO motorcycle jacket vintage 1950s leather Photo by Chandler Cruttenden on Unsplash

素材としての革──ホースハイドとティーバイン・タンニング

ザ・リアルマッコイズのライダースジャケットを構造面で特徴づける最大の要素は、革そのものにある。同社が主力に据えるのはホースハイド、すなわち馬革だ。かつてのアメリカン・ライダースの定番素材であり、牛革(カウハイド/ステアハイド)と比較して繊維の密度が高く、しなやかさと強度を高い次元で両立すると一般に言われる。

ここで少し、鞣し(なめし)の技術に踏み込む。革製品の鞣し工程には大きく分けてクロム鞣しとタンニン鞣し(植物鞣し)がある。クロム鞣しは工業的に均一な仕上がりが得られ、生産効率が高い。一方、タンニン鞣しは天然の植物タンニンを用いて数週間から数か月かけて革を仕上げる。時間も手間もかかるが、経年変化──いわゆる「エイジング」──の表情が豊かで、使い込むほど持ち主の身体に馴染む。ザ・リアルマッコイズが選択しているのは後者の系譜にあたる鞣し方であり、同社の革ジャンが着込むほどに深みを増すと評される根拠はここにある。

さらに踏み込めば、同社はホースハイドの調達先として海外の特定のタンナー(鞣し業者)と長年にわたり関係を構築しているとされる。馬革は牛革と比べて原皮の供給量が圧倒的に少なく、しかもライダースジャケットに適した厚み(一般に1.0〜1.3mm前後とされる)に漉き上げた一枚革を安定的に確保するのは容易ではない。この調達力の問題は、同社の製品が受注生産に近い生産体制をとり、常時潤沢に在庫があるわけではないという現実に直結している。

着用初期のホースハイドは硬い。腕を通した瞬間に「鎧のようだ」と表現されることもある。だが数シーズン着込むうちに、革は持ち主の体型に沿って屈曲部が柔らかくなり、独特のシワ──「あたり」と呼ばれる──を刻んでいく。この変化は、タンニン鞣しの馬革でなければ得られない質のもので、クロム鞣しのカウハイドでは同じ表情にはならない。ここに数万円の価格差の物理的根拠がある。

📺 関連映像: THE REAL McCOY'S leather jacket BUCO review — YouTube で検索

horsehide leather tanning process close up motorcycle Photo by Haberdoedas on Unsplash

BUCOライダースの型番が語る設計思想──J-24とJ-100の違い

ザ・リアルマッコイズがBUCO名義で展開するライダースジャケットには複数の型番がある。なかでもJ-24とJ-100は二輪乗りの間でとくに認知度が高い。

「ザ・リアルマッコイズ BUCO J-24 ライダースジャケット」は、いわゆるダブルブレスト型のライダースだ。左右非対称にジッパーが走るデザインで、これは前傾姿勢でジッパーの金具が腹部に食い込むのを避けるための設計上の判断だったとされる。襟にはスナップボタン付きのベルトが備わり、高速走行時に襟がバタつくのを抑える。脇下にはベンチレーションを兼ねたジッパーが入り、温度調整と運動性を両立させる構造になっている。シルエットは1950年代のアメリカン・ライダースの王道で、マーロン・ブランドが『乱暴者』で着たSchott Perfecto One Starの系譜に連なるものだ。

一方、「ザ・リアルマッコイズ J-100 ライダースジャケット」はシングルブレスト型。センターにジッパーが走るシンプルな構成で、ダブル型に比べて見た目の主張は控えめだ。しかしこの控えめさが、実はライディングにおいては利点になる。前面のかさばりが少ないぶん、ネイキッドやカフェレーサーのように上体をやや伏せるポジションでも違和感が出にくい。シングル型のライダースは1960年代以降、イギリスのトンアップ・ボーイズやカフェレーサー文化の中で存在感を増した型であり、ルイスレザーズのライトニングと設計思想の共通項がある。ただしJ-100のそれはあくまでアメリカのBUCOの型紙が起点であり、英国製ライダースとは肩の入り方や身幅の取り方が異なる。

いずれの型番も、ザ・リアルマッコイズの国内工房──あるいは同社が契約する国内の熟練縫製職人──によって、一着ずつ縫い上げられている。革ジャンの縫製は布帛(ふはく)の縫製とは根本的に異なる。厚い革を貫通させるミシン針の番手、革が送り歯で滑らないための押さえの圧力調整、カーブ部分での革の「逃がし方」──これらはマニュアル化しにくい領域であり、職人の手が蓄積した感覚に依存する部分が大きいと言われる。

double breasted motorcycle leather jacket BUCO vintage Photo by Yohann LIBOT on Unsplash

価格と相場──「高い」の中身を分解する

ザ・リアルマッコイズのBUCOライダースジャケットは、新品の定価がおおむね20万円台後半から30万円台に達する。革の種類や仕様によってはそれ以上になるモデルもある。この価格帯は、Schott(ショット)やVanson(バンソン)の定番モデルと比べると明らかに高い。ショットの613(ワンスター)が日本国内で10万円前後、バンソンのレザージャケットが15〜20万円前後という相場観(2025〜2026年時点の概算)を考えれば、ザ・リアルマッコイズはその1.5〜2倍の位置にいる。

この価格差の内訳を構造的に考えると、以下の要素が浮かぶ。第一に、前述のとおり原皮の調達コスト。供給量の限られたホースハイドを、特定のタンナーからタンニン鞣しで仕上げてもらう工程は、汎用のクロム鞣しカウハイドとは原価構造がまるで違う。第二に、副資材。ヴィンテージ仕様の専用ジッパー、ボタン、バックル類を少量ロットで製造するコスト。第三に、国内の熟練職人による手縫製工程を含む生産体制。大量生産ラインに乗せられない工程が含まれる以上、一着あたりの人件費は必然的に上がる。

中古市場に目を向けると、状態の良いBUCOライダースは定価の7〜8割程度で取引されることが多く、人気モデルや限定仕様は定価を超える場合もある。とくに初期ロットや既に廃番となったモデルにはプレミアがつく傾向がある。これは同社の製品がファッションアイテムとしてだけでなく、コレクターズアイテムとしての市場価値を持ち始めていることを示している。

ただし、誤解のないように言えば、ザ・リアルマッコイズの革ジャンは「投資」のために買うものではない。ライディングで着込み、雨に打たれ、転倒の擦過痕が入り、それでも10年20年と持ち主とともに変化し続ける──そういう用途に応える設計と素材が選ばれている。その対価として20万円台後半という数字が妥当かどうかは、最終的には着る人間が自分の身体で判断するしかない。

motorcycle rider leather jacket riding cafe racer Photo by Aleksandr Gordikov on Unsplash

まとめ──「再現」の先にあるもの

ザ・リアルマッコイズの革ジャンは、「ヴィンテージの再現」という枠に収まらない製品になりつつある。1950年代のBUCOオリジナルが存在した時間は、すでに70年以上前のことだ。その型紙と素材選定を2020年代の技術と品質管理で再構築した結果、「当時のオリジナルを超えている部分がある」とすら言われることがある。縫製の均一性、革の検品精度、ジッパーの耐久性──これらは当時のアメリカの工場生産品よりも、現在の日本の職人仕事のほうが確実に上回っている可能性が高い。

しかし同時に、オリジナルのBUCOが持っていた「雑味」──ロットごとの革質のブレ、縫い目の微妙な不揃い、使い捨て的な価格帯だからこそ躊躇なく着倒せた気安さ──は、ザ・リアルマッコイズの製品にはない。それは品質の向上と引き換えに失われたものであり、良い悪いではなく性質の違いだ。

二輪に乗る人間にとって、革ジャンは装飾品ではなく装備である。路面との摩擦から身体を守り、風を遮り、季節をまたいで着続けるための道具だ。ザ・リアルマッコイズのライダースは、その道具としての本分を設計の起点に据えたまま、「50年後にヴィンテージと呼ばれる現行品」を作ろうとしている。それがこのブランドの本質的な野心であり、20万円台後半という値札の裏にある思想である。

📺 関連映像: Real McCoys BUCO leather jacket aging エイジング — YouTube で検索

より深くこの世界を知りたい方には、枻出版社の『Lightning Archives ヴィンテージレザージャケット』が網羅的な一冊として推薦できる。ヴィンテージの実物写真とディテールカットが豊富で、ザ・リアルマッコイズが「何を見て作っているのか」の手がかりになる。また、イースト・コミュニケーションズが刊行していた『Free & Easy 2012年4月号』にはアメリカン・ヴィンテージウェアの特集があり、同社の製品が文脈のなかでどう位置づけられているかを読み取れる。さらに『別冊Lightning Vol.107 ヴィンテージの教科書』も、革ジャンの鞣しや縫製に関する基礎知識を整理するのに役立つ。


本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。

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