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2026-06-03カスタム

Heiwa Motorcycle — 広島・木村健吾が削ぎ落とした先に残るもの、ブラットスタイルの本流を読む

広島のHeiwa Motorcycleと木村健吾の設計思想を、ブラットスタイルの文脈から構造・歴史・現在地まで解きほぐす。

Heiwa Motorcycle — 広島・木村健吾が削ぎ落とした先に残るもの、ブラットスタイルの本流を読む
Photo by Karen Roe · Source

広島の一軒から世界に届いた「引き算」の思想

カスタムバイクの世界で「足す」ことは容易い。フェンダーを換え、マフラーを替え、シートカウルを被せる。だが「引く」ことには覚悟がいる。何を残し何を消すか、その判断の精度がそのまま製作者の世界観を裸にするからだ。広島市を拠点とするHeiwa Motorcycle(ヘイワモーターサイクル)の木村健吾は、この「引き算」を極端なまでに突き詰めてきたビルダーとして、国内外のカスタムシーンで一目置かれてきた。

Heiwaの名が海外メディアに頻繁に登場するようになったのは2010年代前半のことだ。Bike EXIF、Pipeburn、The Bike Shedといった英語圏のカスタムバイク専門サイトが木村の作品を繰り返し取り上げ、日本語圏よりも先に認知が広がったという見方さえある。その作風は一般に「ブラットスタイル(Brat Style)」の文脈で語られることが多い。もっとも、木村自身のスタイルはブラットスタイルの定義そのものにぴったり収まるというよりは、その根底にある思想──装飾の排除、骨格の露出、走ることへの集中──を独自に煮詰めたものと見たほうが正確だろう。

custom motorcycle minimalist brat style garage Photo by Emma Ou on Unsplash

ブラットスタイルとは何か──タカミネと木村健吾

ブラットスタイルの名を世界に広めたのは、Brat Style(ブラットスタイル)を主宰するゴウ・タカミネ(Go Takamine)である。1990年代後半から2000年代にかけて、チョッパーでもカフェレーサーでもない、シートを低くフラットに削り、フェンダーを短く切り、リアフレームをループ化した簡潔な車体構成が、ひとつのスタイルとして結晶していった。ベースは旧車の空冷単気筒・並列2気筒が多く、ヤマハSR400/500、ホンダCB350/400/750、カワサキW650/W800あたりが定番とされる。

木村健吾が平和モーターサイクルを開業したのは2005年4月、広島市中区においてである(のちに廿日市市阿品へ移転)。国産旧車と英国車を主軸にカスタムを展開し、初期からチョッパーやボバーを含む幅広い文脈の仕事を手がけてきた。やがて木村は「余計なものを外す」方向に舵を切っていく。タカミネが都市のストリートカルチャーやファッションとの接続を意識していたのに対し、木村の仕事はより「職人の手仕事」寄りであるとされることが多い。溶接のビード、金属の仕上げ、フレームの曲げ──そうした加工の跡を必要以上に隠さず、しかし荒く見せるわけでもない、独特の均衡がHeiwaの車両にはある。

両者の違いを端的に言えば、タカミネのBrat Styleが「ストリートの態度」を車体に宿すのに対し、木村のHeiwaは「構造そのものの美」に近づこうとする、という見方ができる。もちろん、これは外部から見た印象の整理であり、実際のカスタムワークは一台ごとに異なる。ただ、木村の代表的なビルド車両を時系列で追うと、年を追うごとにパーツ点数が減り、塗装面積が小さくなり、金属の地肌が多くなっていく傾向は明らかだ。

brat style motorcycle Honda CB flat seat custom Photo by Christopher Burns on Unsplash

車体構成の思想──フレームとシートラインに宿る設計判断

Heiwaのビルドで繰り返し見られる特徴のひとつに、リアフレームのループ加工がある。市販車の多くはシート下にサブフレームが複雑に分岐し、テールランプやウインカーのステー、タンデムシートのブラケットなどが溶接・ボルト留めされている。これらをすべて切り落とし、メインフレームのシートレール部分を単純な円弧で閉じる手法は、ブラットスタイルの象徴的な加工とされる。

ただし、この加工は見た目の簡潔さだけの問題ではない。サブフレームは車体剛性の一部を担っているため、単純に切断すれば後端のねじれ剛性が下がる。一般に、ループ化する際にはパイプ径の選定、曲げ半径、メインフレームへの接合位置と溶接ビードの品質が構造強度に直結するとされる。木村の車両で多用される丸パイプのループは、視覚的には「まるで最初からこの形だった」かのように自然だが、実際にはメインフレームとの接合部にガセット(補強板)が入っていたり、パイプ内部に補強を仕込んでいるケースがあるとされる。この種のディテールは外観写真ではわかりにくいが、カスタム誌の分解取材記事や、海外のビルドレポートで時折触れられている。

もうひとつの特徴は、シートの薄さとそのラインだ。Heiwaの車両に載るシートは、市販のブラットシートのように既製品のウレタンを革で巻いたものではなく、鉄板のベースパンから制作されるケースが多いとされる。鉄板を叩き出し、最小限のウレタンを載せ、薄い革で包む。結果、シートの厚みは30〜40mm程度にまで抑えられ、フレームのラインがそのまま車体のシルエットになる。長距離走行の快適性を犠牲にしてでもシルエットを優先するこの判断は、Heiwaの車両が「乗るための道具」であると同時に「造形物」であることを示している。

タンクについても同様の思想が見える。既存のタンクをそのまま使う場合でも、タンクとフレームの接触面を削り直したり、マウント位置を数ミリ単位で下げたりする加工が施されることがあるという。タンク上面のラインとシートのラインが一本の流れとして繋がるかどうか──木村の仕事では、この連続性が執拗なまでに追求されているように見える。

📺 関連映像: Heiwa Motorcycle custom build brat style — YouTube で検索

motorcycle frame loop modification welding detail Photo by POWERING OFFROAD on Unsplash

ベース車両の選定──国産旧車と英国車の二本柱

Heiwaのビルドで使われるベース車両は、国産旧車と英国車が二本柱となっている。トライアンフのTR6やボンネビル、サンダーバードといった英国車の比率が高いのが特徴で、近年はBMWやトライアンフの現行モデルを用いたネオレトロ調のビルドも手がける。あわせて、ホンダCBシリーズ、ヤマハSR400/500・XS650、スズキST250、カワサキW系など1970年代前後の日本製空冷車も多く用いられる。

この選定にはいくつかの合理的な理由が考えられる。第一に、空冷エンジンの外観はカスタムバイクの文脈において「剥き出しの機械美」と直結する。フィンの造形がそのまま意匠となり、ラジエターやホース配管が不要なぶん車体周りが簡潔になる。第二に、1970年代前後の旧車フレームは鋼管のダブルクレードルが主流であり、構造が単純で加工しやすい。アルミツインスパーやモノコックフレームの現代車とは異なり、鉄パイプを切って溶接するという手作業の延長で形を変えられる。第三に、部品の入手性だ。CB750やSR400、あるいはトライアンフの旧車のように長く愛された車種は部品の流通量が多く、社外パーツも豊富に存在する。

もっとも、Heiwaのビルドが「旧車の懐古」に留まっているかといえば、そうではない。足回りに現代的なサスペンションやブレーキを移植するケースも見られる。たとえば、フロントフォークを倒立式に換装したり、リアにモノショックのスイングアーム式を採用したりする車両が過去に発表されている。見た目はクラシック、走りの要所は現代の技術──この取捨選択の基準が、木村の「引き算」の本質を物語る。無差別に古いものを残すのではなく、「古くても機能するもの」と「現代に置き換えるべきもの」を選別しているわけだ。

Honda CB550 vintage custom motorcycle engine detail Photo: Honda CB550 Four K by Bugsybanana, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)

海外評価と日本国内での位置──「逆輸入」される評判

木村の評価を決定づけた実績のひとつが、横浜ホットロッドカスタムショーでの受賞だ。バイク部門の頂点である『BEST OF SHOW』を2016年・2017年と2年連続で受賞し、その名を国内外に轟かせた。さらに、海外では『平和スタイル(Heiwa Style)』という呼称が定着するほど独自の作風が認知され、近年は世界的スーツケースメーカー『RIMOWA』のカタログに日本を代表するアーティストのひとりとして起用されるなど、二輪の枠を越えた評価も受けている。

Heiwa Motorcycleの名が世界的に知られるようになった経路は、前述のとおり英語圏のウェブメディアが大きい。Bike EXIFやPipeburnは2010年代にカスタムバイク文化の世界的なプラットフォームとなり、日本のビルダーも数多く取り上げられた。Cherry's Company(チェリーズカンパニー)、Hidemo(ヒデモ)、Ask Motorcycle(アスクモーターサイクル)、そしてHeiwaといった名前が海外読者に浸透していった時期だ。

Heiwaの海外評価で繰り返し指摘されるのは「クリーンさ」である。配線の処理、ケーブルの取り回し、ボルトの頭の向き──そうした細部の仕上げが異常なまでに整っている、という評価が散見される。カスタムバイクのビルドクオリティは、派手な造形よりもむしろこうした地味な箇所に表れるものだ。目に見えない場所の処理が車体全体の「空気」を決めるという認識は、日本のカスタムビルダーに共通する傾向だが、木村の場合はそれが徹底されている度合いが高いと一般に評される。

一方、日本国内での知名度は、ハーレーカスタムの大手ショップやドラッグレース系ビルダーに比べると、必ずしも大衆的とは言えない。雑誌『カスタムバーニング』や『VIBES』の誌面に登場することはあるものの、テレビの情報番組で取り上げられるような種類の知名度とは異質だ。むしろ、SNS経由で海外の評判を知った国内のライダーが「逆輸入」的にHeiwaに辿り着く、という流れが2010年代半ば以降は増えたとされる。

広島という立地も特筆に値する。日本のカスタムバイクシーンは東京(世田谷・目黒・杉並)と関西(大阪・神戸)に集中する傾向があり、広島は地理的に「辺境」に近い。だが木村はその距離をむしろ活かしているようにも見える。流行のサイクルが速い都市部から離れたところで、自分のペースで一台を仕上げる。SNSとウェブメディアが地理的ハンデを消した時代だからこそ成り立つ戦略でもある。

Hiroshima Japan motorcycle workshop custom garage Photo by Óscar Gutiérrez on Unsplash

まとめ──引き算の先にある「平和」の意味

Heiwa Motorcycleの仕事を通覧して浮かび上がるのは、カスタムバイクという表現形式における「引き算の誠実さ」だ。装飾で個性を出すのではなく、構造を露出させることで車体そのものに語らせる。その手法はブラットスタイルの文脈から出発しつつも、もはや特定のスタイルの枠に収まりきらない固有の領域に達しているように見える。

中古市場においてHeiwaのコンプリート車両が出回ることは稀であり、相場を語るのは難しい。ワンオフのビルドが主体であるため、オーダーの可否や納期は直接の問い合わせに拠るほかない。ただ、Heiwaの設計思想──余計なものを削ぎ、フレームのラインを活かし、細部の処理を徹底する──は、ガレージビルダーが自分の一台を仕上げる際の指針としても有効だ。高価な部品を大量に投入するのではなく、既存のものを見つめ直し、本当に必要なものだけを残す。その判断力こそが、Heiwaの車両から学べる最大のものだろう。

屋号の「平和」は、広島という土地の歴史と無関係ではないだろうと推測されることがあるが、その真意は本人の言葉を待つべきものだ。確かなのは、木村健吾の手から生まれる車両が、喧騒とは対極にある静かな説得力を持っているということである。

より深く知りたい方には、造形社の『カスタムバーニング 2015年4月号』がHeiwaを含む国内ブラット系ビルダーの特集を組んでおり参考になる。また、エイ出版社の『CLUTCH Magazine 2018年12月号』はジャパニーズカスタムカルチャーを幅広くカバーしている。海外目線での位置づけを知るには、Chris Hunter著『The Ride: New Custom Motorcycles and Their Builders』(Gestalten刊)が日本のビルダーも複数収録しており、Heiwaの仕事を国際的な文脈で捉えるのに適した一冊だ。

📺 関連映像: Heiwa Motorcycle 木村健吾 カスタムバイク — YouTube で検索


本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。

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    Chris Hunter / Gestalten

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