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2026-07-13新型・試乗

Aprilia Tuono 660 — 174kgのミドルツインが「初めての欧州車」を塗り替える理由

アプリリア・トゥオーノ660の設計思想、エンジン構造、電子制御、若年層支持の背景を公開情報に基づき解析する。

Aprilia Tuono 660 — 174kgのミドルツインが「初めての欧州車」を塗り替える理由
Photo by Paulo Freitas · Source

660ccという排気量が意味するもの

二輪の排気量帯には、それぞれ時代の要請が刻まれている。1970年代の750cc、1990年代の400cc、2000年代の1000cc——いずれも税制や免許制度、レースレギュレーションと密接に結びついて「主戦場」が決まってきた。2020年代に入ってから欧州で急速に存在感を増したのが、600〜700ccのミドルクラスである。その背景には、欧州の段階的免許制度——とりわけA2免許(最大出力35kW=約47.6ps以下)で乗れるバイクへの需要がある。

Aprilia(アプリリア)がTuono 660(トゥオーノ660)を発表したのは2021年のこと。先行して登場したフルカウルのRS 660と車台・エンジンを共有しつつ、ストリートファイター然としたアップライトなポジションを与えられたモデルだ。公称最高出力は100ps(73.5kW)/10,500rpm。A2免許対応の出力制限仕様では47.6psにデチューンされるが、フルパワー仕様であっても車両重量は乾燥で174kgとされる。同時代の日本製ミドルクラス——たとえばYamaha MT-07の乾燥重量が公称約175kg前後であることを考えると、数字だけ見れば拮抗している。だが車体構成とエレクトロニクスの密度で、Tuono 660は明確に異なる設計思想を提示した。

Aprilia Tuono 660 streetfighter motorcycle Photo by Sergio Martins on Unsplash

270度クランクの並列二気筒——「不等間隔」が生む個性

Tuono 660の心臓部は、排気量659ccの水冷DOHC並列二気筒。ボア×ストロークは81mm×63.93mmとショートストローク設計で、高回転域での伸びを重視した構成である。注目すべきはクランク位相角で、270度の不等間隔点火を採用している。これは一般に90度Vツインと同じ点火間隔を並列配置で再現する手法とされ、結果として低中回転域では鼓動感のあるパルス、高回転域では滑らかな回転上昇という二面性を持つとされる。

270度クランクの並列ツインは、近年ではYamaha CP2エンジン(MT-07系)が代表格だが、Aprilia 660ユニットはそれとはアプローチがやや異なる。シリンダーヘッドには吸気側2本・排気側2本の4バルブを配し、カムドライブにはサイレントチェーンを用いている。吸気にはライド・バイ・ワイヤ式の電子制御スロットルが組み合わされ、後述するAPRC(Aprilia Performance Ride Control)の統合制御の基盤となっている。圧縮比は13.5:1と、ストリートモデルとしてはかなり高い部類に入る。高圧縮比は熱効率の向上に寄与する反面、ノッキングへの感受性が高まるため、点火時期の緻密な制御が前提となる。電子制御スロットルとの組み合わせは、この高圧縮比を成立させるための設計上の必然であったと考えてよい。

なお、同エンジンのRS 660版との出力差は公称上ほぼ無い。チューニングの差ではなく、車体側のキャラクター——カウルの有無、ハンドル位置、ステップ位置——で棲み分けるという手法は、近年の欧州メーカーに共通する潮流である。

Aprilia 660 parallel twin engine motorcycle Photo: Aprilia Tuareg 660 (bearb Sp) by Makoia, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)

📺 関連映像: Aprilia Tuono 660 exhaust sound ride — YouTube で検索

APRCという電子制御パッケージの実像

Tuono 660を語るうえで避けて通れないのが、APRC(Aprilia Performance Ride Control)と呼ばれる電子制御群である。これはもともとスーパーバイク世界選手権で培われた技術をストリート向けに翻訳したもので、上位モデルのRSV4やTuono V4にも搭載されてきた。660クラスに投入された意義は大きい。

APRCの構成要素を整理すると、以下のようになる。トラクションコントロール(ATC)、ウイリーコントロール(AWC)、エンジンブレーキコントロール(AEB)、クルーズコントロール、そしてコーナリングABS。これらは6軸慣性計測装置(IMU)の情報を基盤として統合制御される。6軸IMUとは、車体の前後・左右・上下の加速度と、ロール・ピッチ・ヨーの角速度をリアルタイムで計測するセンサーユニットであり、バンク角を推定することで旋回中のABS介入やトラクション制御の閾値を動的に変化させる。

ライディングモードは、複数段階が用意されている。公開されている仕様によれば、エンジン出力特性・トラクションコントロール介入度・エンジンブレーキの強さなどを個別に調整できるカスタムモードも備わる。5インチTFTカラーディスプレイを介して設定変更が行え、スマートフォンとの接続にも対応する。

こうした電子制御を「過剰な介入」と見る向きもあるだろう。だが、174kgの軽量車体に100psという出力は、重量あたりの出力比で見れば決して穏やかではない。1psあたり1.74kgという数値は、たとえばリッタークラスのネイキッドが200psで200kg前後であることと比較しても、ほぼ同等のパワーウェイトレシオである。軽い車体は挙動変化も速い。電子制御の介入は、その速さに対する安全の担保という側面が大きい。

Aprilia motorcycle TFT dashboard electronics Photo by Fridi Antrack on Unsplash

フレームと足回り——アルミツインスパーの意味

車体構造はアルミニウム製ツインスパーフレーム。エンジンをストレスメンバー(応力部材)として使う設計で、フレーム単体の軽量化と高剛性を両立させるとされる。スイングアームもアルミ製で、ピボット位置やリンク比の設定がスポーツ走行を前提としたものになっている。

フロントフォークはKYB製の倒立式で、φ41mm。リアサスペンションもKYB製のモノショックで、プリロード調整が可能。フルアジャスタブルではないため、サーキットユースを本格的に追求するライダーにとっては社外品への交換が視野に入るが、ストリートおよびワインディング中心であれば不足を感じにくい設定とされている。

ブレーキはフロントにブレンボ製の対向4ピストンキャリパーとφ320mmダブルディスク、リアにシングルディスクという構成。ブレンボの採用は欧州スポーツモデルの定番ではあるが、このクラスの価格帯でラジアルマウントの対向4ピストンを奢っている点は、コスト配分の思い切りが見える。タイヤサイズはフロント120/70ZR17、リア180/55ZR17で、スーパースポーツに準じたワイドなリアタイヤが与えられている。

ホイールベースは公称1,370mm前後。同クラスの日本製ネイキッドと比較するとやや短めで、軽快な旋回性を志向した設計であることが数値からも読み取れる。キャスター角やトレール量の詳細な数値は、メーカー公開資料によればキャスター24.1度、トレール103.5mmとされ、これはかなり「切れ込み方向」に振った設定である。

Aprilia Tuono 660 Brembo brake caliper detail motorcycle Photo by Fridi Antrack on Unsplash

なぜ若年層に響いたのか——価格・免許制度・文化の交差点

Tuono 660の市場での受容を考えるとき、単にスペック表を比較するだけでは見えない構造がある。

まず、欧州のA2免許制度。18歳から取得でき、最大出力35kW以下のモデルに限定されるこの制度のもとで、多くのライダーが二輪免許のキャリアを始める。Tuono 660にはA2対応の出力制限仕様が用意されており、免許ステップアップ後にECUの設定変更でフルパワー化できるとされる。つまり、最初の一台として購入し、経験を積んだ後にそのまま「育てる」ことが制度的に可能な設計になっている。買い替えを前提としない一台完結型の提案であり、これは若年層の経済的な現実にも合致する。

日本市場においては、大型自動二輪免許が必要な排気量だが、新車価格は発売当初から120万円台後半(消費税込み)と案内されており、これは同クラスの日本製ミドルスポーツとほぼ同等か、やや高い程度の水準である。欧州製スポーツバイクが「高嶺の花」だった時代を知る世代からすれば、この価格設定は隔世の感がある。ピアジオグループの量産効率と、インドのノイダ工場での生産体制がこの価格帯を支えていると見られている。

もうひとつ、デザイン言語の影響も無視できない。Tuono 660のフロントマスクは、V4系Tuonoから受け継いだ三眼LEDヘッドライトを特徴とし、攻撃的でありながらどこか有機的な造形を持つ。この「顔つき」がSNS時代のビジュアルコミュニケーションにおいて強い個性として機能している。一目でAprilia、一目でTuonoとわかるアイデンティティは、所有欲を刺激する要素として働く。

Aprilia Tuono 660 LED headlight design motorcycle Photo by Yunhao Luo on Unsplash

📺 関連映像: Aprilia Tuono 660 review test ride 2024 — YouTube で検索

まとめ——ミドルクラスの基準を書き換えた一台

Tuono 660が示したのは、「ミドルクラスは入門用」という固定観念の解体である。6軸IMU、コーナリングABS、電子制御スロットル、ブレンボブレーキ——かつてはリッタースーパースポーツの専有物だったこれらの装備を、174kgの車体に凝縮した。排気量が小さいからといって技術的な妥協はしないという姿勢は、Apriliaがレースで培ってきた哲学の反映でもある。

中古市場においては、2021年の初期モデルからすでに数年が経過し、タマ数も徐々に増えつつある。新車価格との差額がこなれてくれば、「初めての大型」「初めての欧州車」として選ばれる頻度はさらに高まるだろう。パーツ供給に関しては、日本におけるピアジオグループの正規代理店網が整備されており、極端な不安は不要とされる。ただし、純正部品の在庫状況は車種や時期によって差があるため、購入前にディーラーとの確認は欠かせない。

カスタムの入口としては、スリップオンマフラーの交換が最も手軽なファーストステップとなる。SC-Project、Akrapovičなど欧州マフラーメーカーからスリップオンが販売されており、JMCA認証の有無や車検対応については個別に確認する必要がある。フルエキゾーストへの発展や、ECUチューニングまで踏み込むかどうかは、使い方と覚悟次第である。

Tuono 660は、軽く、速く、賢い。そしてその賢さが押しつけがましくない。そこに、この一台の真価がある。


もっと深く知りたい人向けに。Aprilia 660系の開発背景やMotoGP技術との関連については、Greg Pullen著『Aprilia: The Complete Story』(Crowood Press)が車種横断的に網羅している。国内誌では『RIDERS CLUB』2021年5月号がRS 660の国内初試乗を特集しており、車体構成の解説が詳しい。また、『RIDE HI』2023年4月号ではミドルクラススポーツの横並び比較企画にTuono 660が含まれており、同クラスにおける立ち位置を俯瞰するのに好適である。


本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。

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