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2026-07-08車種 Wiki

Aprilia RS660——並列2気筒でリッタースーパースポーツに喧嘩を売った一台の全貌

2020年登場のAprilia RS660を設計思想・エンジン構造・年次変遷・相場まで徹底解剖。新世代ミドルツインの核心に迫る。

Aprilia RS660——並列2気筒でリッタースーパースポーツに喧嘩を売った一台の全貌
Photo by Myles Grim · Source

660ccという排気量が持つ意味

イタリアの二輪メーカーが新たにスーパースポーツを仕立てるとき、排気量の選択にはつねに意図がある。Aprilia(アプリリア)が2020年に発表したRS660の排気量は、658cc。これは同社のフラッグシップであるRSV4に搭載されるV型4気筒エンジンの、ちょうど半分にあたる。偶然ではない。RSV4の1,099cc・V4ユニットから2気筒ぶんを切り出すという発想で開発がスタートしたことは、Apriliaが公式に語ってきた事実である。

ミドルクラスのスポーツバイクといえば、600cc直列4気筒が長年王座に居た。ヤマハYZF-R6、ホンダCBR600RR、カワサキZX-6R——いずれも高回転型で、レプリカ文化を支えた名機だ。しかし2010年代後半、排ガス規制の強化とともにこのクラスは急速に退潮する。Euro 5対応のコストを600cc・4気筒に載せるのは、メーカーにとって割に合わない。その間隙を突くように登場したのがRS660だった。

並列2気筒、270度クランク、最高出力は公称100PS(73.5kW)。数字だけ見れば600cc・4気筒のピーク出力には届かない。だが、RS660が目指したのは高回転域での出力競争ではなく、常用回転域でのトルク感と軽さによる「速さの体感」であった。乾燥重量は公称169kg。同時期のYZF-R6が乾燥約166kgとされるから、ほぼ同等の軽さを、遥かに扱いやすいパワー特性と組み合わせたことになる。この設計判断が、RS660を単なるミドルクラスの新顔ではなく、「スーパースポーツの再定義」と評させた核である。

Aprilia RS660 sportbike motorcycle Photo: Aprilia RS660 Trofeo by AVMOTO, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)

エンジン設計——RSV4から受け継いだものと捨てたもの

RS660の心臓部である658cc並列2気筒エンジンは、「RSV4のバンク角を展開して並列に並べ直した」ような構造をとっている、とよく語られる。正確にいえば、ボア×ストロークは81.0mm×63.93mmで、RSV4(78.0mm×52.3mm)とは異なる。ただしシリンダーヘッドの設計思想——ツインスパーク点火、可変バルブタイミングの採用、吸気側のファンネル形状——にはRSV4で培った技術が色濃く反映されている。

注目すべきはApriliaが自社で「フォワード・フィード」と呼んだ吸気システムだ。エアボックスからシリンダーヘッドへの吸気経路を可能な限り直線に近づけ、スロットルボディの位置を後傾させることで、充填効率を高めている。この配置はエンジン単体の全長をやや伸ばすが、フレーム設計との整合性でカバーする——という割り切りが、V4ではなく並列2気筒だからこそ可能だった部分である。

270度クランクの採用は不等間隔爆発を生み、排気音と駆動力のパルスに独特のリズムを与える。これは同じ並列2気筒でもヤマハMT-07系の270度クランクと基本概念は同じだが、RS660ではシリンダーヘッドの設計と高圧縮比(13.5:1とされる)によって、より高回転まで引っ張れるキャラクターに仕上げられている。レブリミットは公称11,500rpm付近。ミドルツインとしてはかなり高い領域まで回る設計だ。

電子制御の搭載量も特筆に値する。6軸IMU(慣性計測装置)をベースに、トラクションコントロール、ウイリーコントロール、コーナリングABS、エンジンブレーキ制御、クイックシフター(アップ&ダウン)を標準装備。これらはRSV4譲りのAPRCプラットフォームを簡略化したもので、ミドルクラスの価格帯にリッタースーパースポーツ級の電子装備を持ち込んだ。2020年時点では、この装備水準を持つ同クラスのライバルは事実上いなかった。

Aprilia RS660 engine cylinder twin sportbike motorcycle Photo: Aprilia RS660 Trofeo by AVMOTO, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)

フレームと車体——軽さの設計思想

RS660のフレームはアルミニウム製ツインスパー構造で、スイングアームもアルミ製。ここまでは現代スポーツバイクとして珍しくないが、RS660が徹底したのはエンジンをストレスメンバーとして活用する度合いである。ステアリングヘッド周辺のフレーム本体と、スイングアームピボット周辺を結ぶ構造体としてエンジンを積極的に使うことで、フレーム自体の材料を減らし、軽量化とコンパクト化を両立させている。

ホイールベースは公称1,370mm。同時期のCBR600RRが1,375mm、YZF-R6が1,375mmとされるから、ほぼ同等。だがキャスター角26.3度、トレール105mmという数値は、やや穏やかな傾向で、レーシーな切れ込みよりも公道での安定感を意識した設定と読み取れる。

サスペンションは前後ともKYB製で、フロントは倒立フォーク(φ41mm)、リアはモノショック。上位仕様を除き、減衰力の調整幅は一般的なスポーツバイクの標準的な範囲に収まるが、バネレートとダンピングの初期設定がよく練られているとされ、ストリートからサーキットの入門レベルまでカバーする懐の広さを持つと一般に評価されている。

ブレーキはフロントにブレンボ製ラジアルマウントキャリパー(対向4ピストン)とφ320mmダブルディスク。リアはφ220mmシングルディスク。このクラスでブレンボのラジアルマウントを標準採用する例は、2020年時点ではRS660が先駆的だった。

車体の軽さは単にスペック上の数字にとどまらない。エンジンの搭載位置、マスの集中化、フューエルタンク容量15リットルという現実的な設定——これらが総合して、一般にRS660は「見た目よりも軽く感じる」と評されることが多い。

📺 関連映像: Aprilia RS660 riding review track — YouTube で検索

Aprilia RS660 front brake Brembo sportbike motorcycle Photo: Aprilia RS660 Trofeo by AVMOTO, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)

年次変遷と派生モデル——2020年から2026年まで

RS660は2020年にプロトタイプが公開され、市販モデルの出荷が始まったのは2020年末から2021年にかけてである。日本市場への正規導入はピアッジオグループジャパンを通じて行われ、当初の希望小売価格は税込で約130万円台だったとされる。

2021年モデルが事実上の初年度量産車であり、ここからRS660の歴史が始まる。同年にはネイキッド版のTuono 660も登場し、プラットフォームの展開が加速した。

2023年モデルでは外装デザインの小変更と、電子制御のソフトウェアアップデートが施された。大きなハードウェア変更はないが、ライディングモードの細分化やクルーズコントロールの追加(一部仕様)など、ツーリングユースへの対応も進んだ。

2024年以降、Euro 5+規制への対応が業界全体の課題となるなか、RS660のエンジンは基本設計を大きく変えずに適合を果たしている。これは当初からEuro 5対応を前提に設計されたアーキテクチャの余裕と言える。2025年から2026年にかけても、カラーリングの変更と電子制御の微調整が主な年次更新であり、プラットフォームとしての成熟期に入っている。

派生モデルとしては、前述のTuono 660のほか、アドベンチャー志向のTuareg 660が同じ658ccエンジンを搭載して2022年に登場。さらにRS660をベースとしたワンメイクレース「Aprilia RS 660 Trofeo」がヨーロッパで開催され、レースベース車としての信頼性も実戦で検証されてきた。このワンメイクレースの存在は、RS660のスポーツ性能がカタログ上の謳い文句だけではないことを裏付ける。

Aprilia Tuareg 660 adventure motorcycle Photo: Aprilia Tuareg 660 (bearb Sp) by Makoia, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)

相場と入手性——日本市場での現実

2026年7月現在、RS660の新車価格は正規ディーラー経由で140万円台から150万円台とされる(仕様・カラーにより変動)。初年度の130万円台と比較すると、為替変動と原材料費の上昇を反映した値上がりが見られるが、同クラスの欧州スポーツバイクとしては依然として競争力のある価格帯に収まっている。

中古市場では、2021年式の走行距離5,000km前後の個体が100万円前後から流通しているとの情報がある。ただし流通量は国産ミドルクラスと比較すれば圧倒的に少なく、色やオプションの選択肢は限られる。正規ディーラーでの整備履歴が残っている個体を選ぶことが、イタリア車の中古購入においては特に重要だ。

パーツ供給についてはピアッジオグループの国内体制が整備されているため、消耗品や電装部品で極端な困難はないとされる。ただし、事故等でフレームやカウル類に損傷を受けた場合、部品のリードタイムが国産車より長くなる傾向がある点は認識しておくべきである。

社外パーツについては、アクラポヴィッチやSC-Projectといったエキゾーストメーカーがスリップオンおよびフルエキゾーストを展開しており、選択肢は少なくない。バックステップ、レバー類、スクリーンなどのカスタムパーツも、欧米のアフターマーケットメーカーを中心に充実してきている。ただし日本国内の保安基準への適合については、購入者自身が確認する必要がある。

Aprilia RS660 motorcycle exhaust aftermarket Photo: Aprilia RS660 Trofeo by AVMOTO, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)

まとめ——この一台が示した新しいスポーツバイクの座標

RS660は、リッタースーパースポーツの技術を小排気量に凝縮するという、ある種の「引き算の設計」によって生まれた。600cc・4気筒全盛期には考えられなかった並列2気筒のスーパースポーツが、電子制御と軽量設計によってリッタークラスに迫る体験を提供する——それがRS660の本質的な価値である。

もちろん万能ではない。高回転域の伸びや官能性では、かつての600cc・4気筒には敵わない領域がある。長距離ツーリングでの快適性は、同じエンジンを積むTuono 660やTuareg 660に譲る部分もある。だが、公道とサーキットの境界線上で最も効率的に「速さ」を引き出せるミドルクラスのスポーツバイクとして、RS660は2020年代の一つの回答を示した。

排ガス規制の強化により、こうした高性能内燃機関のスポーツバイクが今後どこまで存続できるかは不透明だ。だからこそ、RS660のような一台が現行モデルとして存在している今という時間には、それ自体に意味がある。

より深く知りたい向きには、『RIDERS CLUB』2021年3月号(エイ出版社)がRS660の初期インプレッションを詳報しており参考になる。英語文献では Greg Pullen 著『Aprilia: The Complete Story』(The Crowood Press)がアプリリアの設計思想を通史的に追っている。また『RIDING SPORT』2022年5月号(三栄)ではRS660 Trofeoのレースシーンに関する記事が掲載されている。

📺 関連映像: Aprilia RS660 Trofeo race onboard — YouTube で検索


本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。

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