ルート66をバイクで走る——シカゴからサンタモニカ、3,940kmの「退屈区間」と「至福区間」の正体
ルート66全線をバイクで走るための実践情報。レンタル手配、リエゾン区間の組み方、気候と路面の現実を整理した。
3,940kmの幹線道路が「聖地」になった理由
ルート66は、もともと聖地として生まれた道ではない。1926年に連邦政府が指定した合衆国国道66号線は、イリノイ州シカゴとカリフォルニア州サンタモニカを結ぶ全長およそ3,940km(約2,448マイル)の幹線道路であり、その役割は中西部の農産物と人を西海岸へ運ぶことだった。1930年代のダストボウル期、干ばつと砂嵐に追われたオクラホマの農民たちがこの道を西へ向かった歴史は、ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』に刻まれている。スタインベックはこの道を「マザーロード」と呼んだ。
1956年にアイゼンハワー政権が連邦補助高速道路法を成立させ、州間高速道路(インターステート)の建設が始まると、ルート66は徐々にその交通機能を失っていく。1985年には公式な国道指定が解除された。道としての「死」である。だが、死んだはずの道は蘇った。ナット・キング・コールの「(Get Your Kicks on) Route 66」、ボビー・トゥループが書いたあの曲が染みついた文化的記憶、沿道に残るモーテルやダイナー、ガソリンスタンドの廃墟が、ノスタルジーの回路を通じて観光資源へと変貌した。現在ではルート66の保存・復元に取り組む団体が各州に存在し、「Historic Route 66」の標識が旧道沿いに立っている。
バイクでこの道を走る者にとっての核心は、この道が「連続した一本の道」ではないという事実だ。旧道は寸断されている。インターステート40号線やインターステート44号線に上書きされた区間、私有地に吸収された区間、文字通り舗装が消えて砂利道や未舗装路になっている区間がある。だからこそ、走行計画には「リエゾン区間」——旧道が途切れた箇所をインターステートで繋ぐ移動区間——の設定が不可欠になる。全線を旧道だけで走ろうとすると、物理的に不可能な場所に突き当たる。
Photo: Route66 shisen by New Chitose Airport, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)
レンタルバイクの手配——シカゴかロサンゼルスか
アメリカでバイクをレンタルする場合、大手ではEagleRider(イーグルライダー)が全米に拠点を持つレンタル業者として広く知られている。シカゴとロサンゼルス(サンタモニカ近郊)の双方に営業所があるため、片道ワンウェイでの乗り捨てが可能な場合がある。ただしワンウェイ料金は往復に比べて割高になるのが通例で、料金体系は時期や車種によって大きく変動するため、事前の見積もり確認が必須だ。
車種選択は旅の性格を決定する。ルート66をハーレーダビッドソンで走る、というのはある種の定番であり、ロードキングやストリートグライドといったツーリングモデルは長距離の高速巡航に適している。一方で、旧道の中には路面が荒れた区間、タイトなカーブが連続する山岳区間(ニューメキシコ州やアリゾナ州)も存在するため、車重250kgを超えるフルドレスのバガーが必ずしも最適とは限らない。ホンダのアフリカツインやBMWのGSシリーズをレンタルして走る選択肢もあり、アドベンチャー系の車両であれば未舗装区間への対応力も高まる。
国際免許証(ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証)は日本の各都道府県公安委員会で取得できる。有効期間は発行日から1年間で、アメリカでは日本の運転免許証と国際免許証の両方の携帯が求められる。レンタル時には通常、クレジットカードによるデポジットが必要で、保険の範囲(対人・対物・車両)も契約前に確認すべきポイントである。アメリカの自動車保険制度は州ごとに最低補償額が異なり、日本の感覚で「任意保険」と思っているものがアメリカでは法定最低限に過ぎないこともある。追加の補償オプションを付けるかどうかは、各自のリスク判断による。
レンタル期間は、全線を走るなら最低でも10日から14日は確保したい。1日あたり300〜400km程度のペースを基本とし、観光や休息の日を2〜3日挟む計算だ。3,940kmを10日で割ると1日394km。インターステートなら半日で済む距離だが、旧道は制限速度が低く、信号や街中通過もある。1日の走行距離を欲張ると、沿道の風景を見る余裕がなくなる。
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8州を貫く気候と路面——季節選びの技術
ルート66は8つの州を通過する。イリノイ、ミズーリ、カンザス(わずか約21kmだけ通過する)、オクラホマ、テキサス、ニューメキシコ、アリゾナ、カリフォルニア。この8州を一本の旅程として走るとき、最大の変数は気候だ。
最も走りやすい時期は一般に春(4月下旬〜5月)と秋(9月〜10月上旬)とされる。理由は明快で、夏季のテキサス・パンハンドルやアリゾナ砂漠では気温が40℃を超える日が珍しくない。モハベ砂漠を横切るカリフォルニア区間も同様だ。空冷エンジンの車両では渋滞時のオーバーヒートが現実的なリスクになり、ライダー自身の熱中症リスクも看過できない。一方、冬季はイリノイやミズーリで降雪と凍結の可能性がある。路面凍結は二輪にとって致命的である。
路面状態について。旧道のうち、よく整備されて観光ルートとして機能している区間——イリノイ州のポンティアックからスプリングフィールドにかけて、あるいはアリゾナ州のセリグマンからキングマンにかけて——は舗装状態も良好で、普通のロードバイクで問題なく走れる。だがニューメキシコ州やテキサス州の一部には、舗装が剥がれたまま放置されている区間や、砂利が堆積した区間がある。これらは地元で「ダートセクション」と呼ばれることもあり、ロードタイヤのクルーザーでは慎重な走行が求められる。特に雨後は砂が泥に変わる。
高度変化も無視できない。ニューメキシコ州のサンタフェ周辺では標高が2,100mを超える場所があり、キャブレター車の場合は高地での混合気の薄さが気になる可能性がある。もっとも、現代のインジェクション車であれば電子制御が補正するため、実用上の問題はほぼないとされる。キャブレター仕様の旧車でルート66を走る場合は、ジェットのセッティング変更を前提にするか、あるいは低地区間で多少リッチに振っておくという考え方もある——ただしこれはレンタル車両ではなく、自分の車両を持ち込む場合の話になる。
📺 関連映像: Route 66 motorcycle ride Arizona desert highway — YouTube で検索
Photo: Route66 shisen by New Chitose Airport, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)
リエゾン区間の作り方——旧道とインターステートの切り替え
ルート66ツーリングの設計で最も実務的なテーマが、旧道とインターステートをどう切り替えるかである。この「リエゾン区間」の組み方が、旅の満足度を大きく左右する。
まず前提として、ルート66の旧道は全線が現存しているわけではない。Jerry McClanahan(ジェリー・マクラナハン)が著した『EZ66 Guide for Travelers』は、現存する旧道区間をターンバイターンで網羅したガイドブックとして、ルート66走破を目指す旅行者の間で定番の参考資料とされている。同書は版を重ねており、旧道の通行可否情報が更新されている点が実用的だ。
リエゾン区間が必要になる典型的な場面は以下の通り。
テキサス州アマリロの前後。パンハンドル地域では旧道が長い直線区間となり、その一部はインターステート40号線と完全に重なっている。つまり「旧道を走ること」と「インターステートを走ること」が物理的に同じ行為になる区間がある。この場合、リエゾンという概念は不要で、そのままインターステートを走ればよい。
一方、ニューメキシコ州のサンタローザからアルバカーキにかけては、旧道が残っている区間と消失している区間がモザイク状に入り混じる。ここでは、ナビゲーションアプリに旧道のウェイポイントを事前に打ち込んでおくか、紙の地図と前述のガイドブックを併用して、旧道への進入口と復帰口を把握しておく必要がある。Google Mapsで「Route 66」と検索しても、表示されるルートがインターステートになることが多い。
リエゾン区間の走行で注意すべきは、インターステートへの合流と離脱だ。アメリカのインターステートは制限速度が概ね65〜75mph(約105〜120km/h)であり、合流レーンが短い場所も存在する。日本の高速道路と同様に加速して流れに乗る必要があるが、アメリカのトラックは日本よりも長大で、追い越し時の風圧は相応のものになる。特にハーレーのスポーツスター系やミドルクラスの車両では、横風とトラックの風圧の合成が体に効いてくる。
旧道区間の制限速度は場所によって異なるが、街中を通過する場合は25〜35mph(約40〜56km/h)、郊外では55mph(約88km/h)程度が一般的だ。速度取り締まりは州や郡によって姿勢が大きく異なり、テキサス州やオクラホマ州の小さな町では厳格な取り締まりが行われることがあるとされる。
Photo by Simon Hurry on Unsplash
沿道の「見るべき場所」と「通過でいい場所」
ルート66沿いの観光スポットは無数にあるが、バイク旅において全てに立ち寄ることは現実的ではない。ここでは、バイクで走ること自体が体験になる区間と、停車して見る価値のあるポイントを分けて考える。
走ること自体が体験になる区間として、最も評価が高いのはアリゾナ州のセリグマンからキングマン、そしてオートマンにかけての区間だ。セリグマンは「ルート66復興運動の発祥地」とも呼ばれ、かつてインターステートの開通で通過交通を失った町を、地元の理髪師エンジェル・デルガディーヨが中心となって観光地として再生させたことで知られる。この区間の道は適度なワインディングと荒涼とした砂漠の景観が続き、交通量も少ない。オートマン近郊のシットグリーブス峠は、狭いつづら折りが続く山岳路で、アメリカの道にしては珍しくタイトなコーナーが連続する。大型クルーザーでは取り回しに注意が必要だが、二輪で走る楽しさは格別だと言われる。
一方、テキサス州のパンハンドル地域は、見渡す限り平坦な大地が続く。景色の変化に乏しく、風が強い日は直線路での横風に耐え続けることになる。この区間を「修行」と表現するライダーは多い。ただし、アマリロの手前にあるキャデラック・ランチ——地面に頭から突き刺さった10台のキャデラックのアートインスタレーション——は、ルート66の象徴的な風景として知られており、ここだけは立ち寄る価値がある。1974年にアートグループ「アント・ファーム」が制作したもので、誰でもスプレーペイントで落書きしてよいという暗黙のルールで知られる。
イリノイ州では、スプリングフィールドのCozy Dog Drive In(コージー・ドッグ・ドライブイン)がルート66文化の象徴として親しまれている。コーンドッグの発祥に関わるとされる店で、ルート66グッズの販売もある。シカゴの出発点はグラントパーク内のアダムス・ストリートとミシガン・アベニューの交差点で、「Route 66 Begin」の標識がある。終着点はサンタモニカ・ピアの「End of the Trail」標識だ。
ミズーリ州のデビルズ・エルボーは、ビッグ・パイニー川に沿って走る曲がりくねった旧道区間で、風光明媚な渓谷路として知られる。ここも二輪で走る満足度が高い区間だ。
📺 関連映像: Route 66 Seligman Arizona motorcycle ride — YouTube で検索
Photo: Route66 shisen by New Chitose Airport, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)
まとめ——ルート66は「走り切る」ものではない
ルート66をバイクで走る計画は、しばしば「全線走破」という達成目標で語られる。だが実際に走った者の記録を読むと、繰り返し出てくるのは「全部を見ようとすると何も見えなくなる」という類いの感想だ。3,940kmは東京から鹿児島を往復してなお余りある距離であり、8州にまたがる気候・路面・文化の変化を1回の旅で消化しきるのは難しい。
むしろ実務的なアプローチは、全線を通して走るのではなく、区間を選んで走ることだ。アリゾナ州のセリグマン〜オートマン区間だけを3日間かけて往復する。あるいはミズーリ州のオザーク台地周辺を5日間かけて回る。そうした区間限定のツーリングの方が、旧道を深く味わえるという考え方もある。全線走破にこだわるなら、2週間以上の日程を確保し、リエゾン区間では割り切ってインターステートを流す。旧道が残っている区間に時間と集中力を注ぎ、消失区間は移動に徹する。その切り替えの設計が、ルート66ツーリングの核心的な技術である。
レンタル手配は出発の3〜6ヶ月前に着手するのが現実的だ。ハイシーズン(5月〜9月)はワンウェイ対応車両の在庫が限られる。国際免許証の取得、海外旅行保険の手配、クレジットカードの利用限度額確認といった事務的な準備も、出発の1ヶ月前には完了させておきたい。
ルート66は、完走することが目的ではなく、寸断された道を自分でつなぎ直す行為そのものが旅の骨格になる。インターステートで効率よく移動するか、砂利の残る旧道に敢えて入るか。その判断の連続が、この道を走る意味だ。
ルート66についてさらに深く知りたい場合、Michael Wallisの『Route 66: The Mother Road』(St. Martin's Press刊)は、道の歴史と沿道文化を包括的に記述した定番書である。実際の走行計画には、Jerry McClanahanの『EZ66 Guide for Travelers』(National Historic Route 66 Federation刊)がターンバイターンの旧道ナビゲーション情報として実用的だ。日本語文献では、東理夫の『ルート66 アメリカ・マザーロードの旅』(丸善出版)がアメリカの道路文化と音楽文化を交差させた読み物として参考になる。
Photo: Route66 shisen by New Chitose Airport, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)
本記事はメーカー公開資料・雑誌バックナンバー・公開報道を編集したものです。公道での違法改造・スピード超過・無保険走行を推奨するものではありません。車両の購入・カスタム・メンテナンスは、必ず正規ディーラーまたは認証整備工場にご相談ください。
📚 この記事で紹介した書籍
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Route 66: The Mother Road
Michael Wallis / St. Martin's Press
- 📖
EZ66 Guide for Travelers
Jerry McClanahan / National Historic Route 66 Federation
- 📖
ルート66 アメリカ・マザーロードの旅
東理夫 / 丸善出版
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